
PBR0.5倍の“隠れ資産株”に対する非敵対型資本介入の実像
2025年6月19日、マイルストーン・キャピタル・マネジメント株式会社(以下、マイルストーン社)は、株式会社ストライダーズ(証券コード:9816)の株式674,400株を市場外で取得し、発行済株式総数に対する保有比率が6.94%に達したことを大量保有報告書にて開示した。
取得日は6月16日、取得単価は230円、総額は1億7,395万2,000円。取得資金は全額自己資金であり、第三者からの借入や担保設定は一切存在しない。
形式上は純投資であるが、実質的には「資本政策再構成を前提とした選別型アクティブ投資」であることが読み取れる構造だ。
マイルストーン社とは?
“提案なき支配”を得意とする静謐な選別主義
2012年設立のマイルストーン社は、上場・未上場のバリュー銘柄に対して機動的に出資する独立系投資会社である。
代表は浦谷元彦氏。所在地は東京都千代田区大手町。
過去には未公開不動産ファンドやPE型資本参加も手がけたが、近年は特に「PBR1倍割れ銘柄」「地方上場・資本政策に余白がある企業」「異業種混合体」などを重点ターゲットとし、5〜10%の保有比率を軸にした“選別型バリュー介入”を強めている。
物言いアクティビズムとは一線を画し、直接的な議決権行使やIR攻勢を控える一方で、企業側に「黙してプレッシャーをかける」構造転換型資本戦略を得意とする。
ストライダーズとは?
かつての旧新井組、今は「東アジア分散資産体」
株式会社ストライダーズは、不動産、ホテル運営、海外インフラ投資、国内スタートアップ投資までを跨ぐ非連続型ポートフォリオを有する「事業型ファイナンシャル・ホールディングス」である。
- 国内では「ホテルエミオン東京ベイ」や沖縄のリゾート開発等を手がける
- 東南アジアではシンガポール・インドネシアを中心にVC出資を展開
- 金融機関やPERE系投資家との連携によるJVもあり
だが、総資産に比して時価総額は低く(PBR=0.5倍前後)、市場からの評価は停滞している。
なぜ今、ストライダーズなのか
バリュー発掘型の資本戦略視点
- 「資産超過×資本効率の低迷」型の典型例
- ストライダーズは自己資本比率が高く、有利子負債比率も低水準。にもかかわらずROEは数%台で推移しており、資本構成の再設計余地が顕著。
- 不連続なポートフォリオ=“選別と再構成”の余地
- 旅行・不動産・IT・VCが混在する構造は、事業売却やセグメント分離を通じて資産価値の可視化を図る“解体的評価”がなされやすい。
- 非注目株ゆえの需給安定と情報アービトラージ
- 同社は市場注目度が低く、日経平均・TOPIXに連動しない需給特性を持つ。市場外取引での取得は、マイルストーン社がこの情報非対称性を活かした“沈黙型対話戦略”を構築しうることを意味する。
この6.94%が何を促すか?
- IRと取締役会の反応:この出資を「投資」と見るか、「暗黙の再編要求」と見るかで、IRの質は一変する。
- PBR是正への動き:東証の要請に対応し、自己株取得、増配、クロスシェアの解消などに踏み出せるか
- 他ファンドの連動可能性:同様の“PBR0.5倍×静かな圧力”を評価する他のファンドが続く可能性は高く、連鎖出資の起点になりうる。
静かなる資本の眼差しが、企業の解体価値を照らす
マイルストーン・キャピタルによる6.94%出資は、単なるバリュー投資でもなければ、敵対的アクティビズムでもない。
それは、企業の沈黙、資本の停滞、評価の歪みといった“不活性構造”に対する「選別された資本の眼差し」であり、対話のない対話、圧力のない圧力として機能する。
ストライダーズがこれに応えるか、無視するか──この6.94%は、市場にとってその見極めの起点となる。