光通信、木村化工機に5.00%出資

“インカム型ファンド”の次なる一手

2025年7月8日、通信系持株ファンドとして知られる光通信株式会社は、木村化工機株式会社(証券コード:6378)の株式1,030,500株を取得し、保有比率が5.00%に達したとする大量保有報告書を提出した。

保有の主目的は「純投資」とされ、経営への関与や重要提案行為についての記載はないが、今回の取得はさくら損害保険との共同保有という形を取っており、“配当重視・収益還元型ファンド戦略”の一端として注目される。

木村化工機とは何か

地味だが堅実、“インフラ×装置”の融合モデル

木村化工機は、1951年創業の化学機械装置メーカーであり、化学・石油化学・電力・原子力分野における重装置製造とエンジニアリング事業を基盤とする。以下の3セグメントを主軸に展開している:

① プロセス機器事業

  • 熱交換器、塔槽類、圧力容器など化学プラントの中核機器を設計・製造
  • 主な取引先はENEOS、三井化学、東レなど重化学メーカー

② エンジニアリング事業(化学プラント設備)

  • 上下水処理、医薬・食品プラントのEPC(設計・調達・建設)案件を担当
  • スクラバーや脱臭装置など環境対応機器も展開

③ 水素・次世代エネルギー事業(成長領域)

  • 水素ステーション向け圧力容器、FCV(燃料電池車)関連設備に注力
  • 水素インフラ整備国策に連動した提案型事業モデルを構築中

財務体質は健全で、自己資本比率は60%超、無借金経営。営業利益率は4〜5%と控えめながら、ROEは6〜8%で推移。PBRは依然として0.8倍前後と割安圏にあるが、再エネ・水素投資の進展次第で成長評価が見直される可能性がある。

“日次買い増し”でじわりと5%到達

報告書によれば、光通信および共同保有者であるさくら損害保険は、5月〜6月にかけて約30営業日間、毎日数千株〜1万株程度を市場内で断続取得している。

最大取得日は5月12日の42,400株、最終取得は7月1日の11,100株とされる。

  • 光通信単体:985,100株(4.78%)
  • さくら損保:45,400株(0.22%)

取得資金は光通信側が約7億円、さくら損保側が約4,000万円でいずれも全額自己資金。つまり、レバレッジを一切使わず、インカム狙いでの現物長期保有戦略が明確に読み取れる。

“経営干渉なき戦略的存在感”の構築

今回の取得はアクティビズム的な介入ではなく、以下のような多層的意図が読み取れる

1. キャッシュフロー投資のリアルセクター展開

通信、保険、不動産といった既存キャッシュエンジンに対し、「産業装置」「環境エンジニアリング」といったリアルアセット型ビジネスをポートフォリオに加えることで、より分散的な収益構造を築く狙い。

2. PBR是正要請への“政策共鳴株主”としての機能

経産省・東証が推進するPBR1倍割れ是正政策の中で、静かに“割安改善プレッシャー”を発する存在として市場に認識される。

3. 保険資本との連携によるアセットインカム構築

さくら損保との共同取得は、将来的に“保険運用型の高配当・低ボラティリティ株群”を構築する布石であり、保険ビジネスとのアロケーション設計を視野に入れた動きと読み取れる。

光通信の“戦略的インカム資本主義”が企業の資本構造を変え始める

木村化工機への5.00%出資は、光通信が近年展開する「経営に介入しないが、資本の構造には影響を与える」スタイルを象徴するものである。

これは、旧来的な“物言う株主”ではなく、「物言わぬが圧をかける株主」という新たな株主像の定着を意味する。

企業にとっても、こうした存在は“防衛すべき敵”ではなく、“市場との対話の起点”となり得る存在であり、PBR是正・自己資本活用・還元政策のアップデートに向けた“鏡”となる。

今、光通信が仕掛けるのは「ガバナンスを問う」のではなく、「資本効率を問う」資本主義の実装である。

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