
「アクーゴ」上市前夜、赤字拡大と資金調達の現実
序章|会社の骨格と本資料の位置づけ
サンバイオは、中枢神経系を対象とする他家幹細胞治療薬の開発企業。
主力のSB623は日本で「アクーゴ®脳内移植用注」として条件・期限付承認を取得(2024年7月)。
その後2回の市販品製造でも規格適合を確認し、2025年6月に一部変更承認を申請。
当局審査を経て2026年1月期下半期(2025年8月~2026年1月)に承認取得→薬価収載→発売の想定と記す。
米国ではTBI(慢性期外傷性脳損傷)と慢性期脳梗塞で臨床を再開・計画中だ。
決算ハイライト(2025年2月–7月/連結・中間)
指標 | 2024年中間 | 2025年中間 | 増減 |
---|---|---|---|
研究開発費 | 1,024百万円 | 1,347百万円 | +31.5% |
営業損失 | 1,572百万円 | 1,888百万円 | +20.1%(悪化) |
経常損失 | 1,186百万円 | 2,482百万円 | +109.3%(悪化) |
親会社株主に帰属する中間純損失 | 1,309百万円 | 1,997百万円 | +52.6%(悪化) |
自己資本比率 | 38.3% | 33.5% | ▲4.8pt |
営業CF | ▲1,704百万円 | ▲2,053百万円 | +20.5%流出拡大 |
現金等期末残高 | 3,014百万円 | 2,372百万円 | ▲21.3% |
※数値は半期報告書の損益計算書/CF計算書/主要指標表に基づき、千円→百万円に換算・端数四捨五入。
一言まとめ:R&D増強と為替差損が重く、営業赤字は拡大。営業CFの流出増で現金は約24億円まで低下。
P/Lの骨子
- R&D費 13.47億円(+31.5%)、販管費 5.41億円(▲1.1%)。R&D強化が営業損失18.88億円に直結。
- 為替の反転が決定打:前年中間の為替差益3.98億円→今期は為替差損5.19億円に転落。差し引き約9.16億円の悪化で経常損失24.82億円(+109%)まで拡大。
- 資金調達コストも増加:資金調達費0.34億円/株式交付費0.24億円/社債利息0.14億円等を計上。
収益寄与(ライセンス等)は限定的で、費用側と金融費用・為替が損益を規定している構図。
キャッシュフロー
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営業CF:▲20.53億円(前年▲17.04億円)――赤字・為替差損・未払費用減少の影響。
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投資CF:▲3.02億円――定期預金の純増(▲3億円)など。
- 財務CF:+18.96億円――CB発行10.8億円+株式発行9.76億円等で調達。期末現金は23.72億円(▲6.42億円)。
典型的な「研究開発型:営業▲/投資▲/財務+」の資金循環。発売前の橋渡し資金を、株式+CBで確保した形だ。
B/Sの変化
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総資産:34.47億円→32.19億円(▲2.28億円)。流動資産が減少(現預金▲1.83億円等)。
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固定負債:9.52億円→14.31億円(+4.79億円)。転換社債型新株予約権付社債(10.93億円)を新規計上。
- 純資産:17.63億円→12.94億円(▲4.68億円)。損失計上の一方、為替換算差額+4.96億円が下支え。自己資本比率は45.1%(期首)→33.5%(期末)。
資本政策と希薄化トラック
- 第三者割当(2025/3/3):1,088,140株を919円で発行、資本金/資本準備金各5.0億円増。割当先はCVI Investments。
- 欠損填補(2025/6/6):資本金・資本準備金を各17.73億円減。その後、新株予約権行使で+1.26万株増。8月も小幅行使あり。
- 発行済株式数:72,027,931株(7/31)、提出日現在72,028,331株。
- 転換社債(CB)発行(2025/3/3):総額10.8億円、転換価額は当初1,225円、毎半期終値ベース90%に修正、下限511円・上限1,225円。割当先9.9%超の議決権保有禁止、会長から最大200万株の株券貸借契約(つなぎ売り目的)も開示。
可変転換価額(下限511円)のCBは株価下落局面で希薄化が進みやすい。一方、割当先の議決権9.9%制限や株券貸借の「つなぎ売り」限定など、運用上の枠も明記されている。
第5章|株主とガバナンスの足元
筆頭株主は川西徹氏(14.19%)、森敬太社長(8.32%)が続き、国内ネット証券・外資カストディが上位に名を連ねる。発行済に対する上位10者の合計は約29.1%。
事業進捗(アクーゴ)と銀行コミットメント
- アクーゴの一部変更承認申請は2025年6月提出、2026年1月期下半期の取得を想定。承認後に薬価収載→発売へ。
- 銀行コミットメント/タームローンは総額30億円。現預金・純資産維持やアクーゴ承認に関する財務制限条項・遵守事項が付される。
観測点
- 為替の影響分解:営業外損益の為替要因(±)を四半期で可視化。PL変動の相当部分を左右。
- CBの転換状況と残高:修正後転換価額・発行株数の増加見込み・希薄化率を継続ウォッチ。
- キャッシュランウェイ:営業CF▲約20億円/半期の流出ペースに対し、現金約24億円+コミットメントでどこまで持つか。
- アクーゴの上市工程:一部変更承認→薬価→発売のマイルストーン。上市後の売上計上速度が構造転換の分水嶺。
まとめ
R&D強化+為替の逆風+調達コストで、損失と営業CFの流出は拡大。同時にCB+増資で橋渡し資金を確保し、アクーゴ上市の地ならしは進む。
上市までの資金繰りと希薄化コントロール、そして発売後の立ち上がり――この3点が、次の半期での評価軸になる。