香港ファンドが仕掛ける──Long Corridor、エス・サイエンス株

Long Corridorとは何者か

Long Corridor Asset Management(LCAM)は2018年に香港で設立された投資運用会社で、アジア太平洋地域の株式・新株予約権・デリバティブにまたがる投資を強みとする。

創業メンバーは、かつて香港の著名ファンドNine Masts Capitalに在籍した経歴を持ち、その運用哲学を継承している。

代表のJames Xinjun Tuは、かつてオアシスマネジメントやNine Mastsで責任者を務め、イベント投資やアクティビスト寄りの投資に深い経験を持つ人物だ。

LCAMは香港を拠点としつつ東京・丸の内にも拠点を置き、金融庁に登録された国内拠点を通じて日本企業にアプローチしている。実際の資金は、ケイマン籍のLong Corridor Alpha

Opportunities Master Fund、さらにMAP246(Lighthouse系)BEMAP Master Fund(Blackstone傘下)など複数のファンド顧客資金から構成されている。

つまりLCAMは、香港という「窓口」を通じて、米系・欧州系の巨大資金を日本市場に流し込むハブとして機能している。

報告書が示す事実

2025年9月30日に提出された変更報告書によれば、LCAMのエス・サイエンス株式保有比率は13.88%から11.02%に低下した。

依然として1割超を握る大株主だが、売買の軌跡は単なる処分ではなく、新株予約権を駆使した複雑な資本操作だった。

  • 8月25日:市場外で5,000,000株取得、同日市場内で2,000,000株処分

  • 8月27日:市場内で1,500,000株処分

  • 9月4日:第8回新株予約権3,345万個(@72円)を取得

  • 9月5日:そのうち1,415万個を行使し、14,159,000株を新たに取得(行使@122円)

  • 9月9日:市場外で5,272,000株を@263円で処分

  • 9月26日:市場内で5,000,000株処分

結果として保有株数は横ばいだが、総株式数の変動や一部処分によって保有比率は低下した。

資金の裏側──欧米金融の影

取得資金の一部はメリルリンチ・インターナショナル(ロンドン)からの借入(約1.39億円)によって賄われていた。

つまり、香港ファンドの外形を取りながら、背後ではロンドンを経由した欧米資金が流れ込んでいる。

さらに、エス・サイエンスが発行した第8回新株予約権は、発行会社取締役会の承認を要する条件付きで、LCAMと関係ファンドが引き受けている。

ここには「資金調達と引き換えに外資ファンドに門戸を開く」企業側の意思も明白だ。

エス・サイエンスの脆弱性

かつては日鉄鉱業系の金属関連企業として知られたエス・サイエンスだが、近年は事業規模が縮小し、資金調達手段として新株予約権発行に頼らざるを得ない状況にある。

ワラントの大量発行は短期資金を呼び込む「延命策」だが、その代償は株式の希薄化外資依存である。

既存株主にとっては、自らの持分が薄まる一方で、外資ファンドは低コストで権利を取得し、高値で市場売却できる収益機会を確保する。

観点と論点

  • 比率低下は表面的:11.02%という数字は「一時点の残高」にすぎない。新株予約権の潜在株を行使すれば、再び比率が変動する。

  • 外資金融の多層構造:香港運用会社を経由し、ケイマン籍ファンド、米系ライトハウスやブラックストーン資本、さらにロンドンのメリルリンチが結節する多重資金構造。

  • 小型上場企業の盲点:希薄化に脆弱な中堅企業は、外資ファンドにとって格好のターゲット。経営陣の「承認」条項はあっても、既存株主保護は形式的になりがちだ。

延命策か侵食か

LCAMの持分比率は減少した。だが、問題は数字ではない。

株式と新株予約権を組み合わせ、借入を絡め、外資顧客資本を背後に回転させる仕組みこそが、日本の小型上場企業を蝕む実態である。

企業は資金を得る。外資は利益を得る。株主は希薄化を背負う。

この構図を「市場の健全なダイナミズム」と見るか、「支配の入り口」と見るか。

エス・サイエンスの事例は、外資資本の影と日本市場の脆弱性を象徴している。

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