
在米日系ファンドが静かに動く理由
報告書が明かした動き
2025年10月9日、米国カリフォルニア州トーランスを拠点とするTSK Capital Partners LLC(代表:長島一之/Kazuyuki Nagashima)が、ダントーホールディングス(5337)株式を8.11%保有していることを関東財務局へ届け出た。
報告義務発生日は同日で、保有株数は2,706,300株。直前の保有比率7.11%から1ポイント増加し、静かに買い増しを進めていたことが判明した。
報告書によると、TSKの保有目的は「純投資」。しかし、2025年7月以降の詳細な取引履歴を追うと、単なるパッシブ投資とは異なる中期戦略を伴った積極的取得であることが浮かび上がる。
TSK Capital Partnersとは何者か
TSK Capital Partners LLCは、2022年8月設立の米国法人。代表者である長島一之氏は日本出身で、米国在住の日系投資家。
拠点を構えるカリフォルニア州トーランスは、全米でも有数の日系企業集積地であり、製造・物流・金融など日本企業の活動拠点として知られている。
TSKの事業内容は「コーポレート・ベンチャーキャピタルおよびコンサルティング」。
設立からまだ3年足らずながら、日米の資本・経営ノウハウを橋渡しする越境型日系ファンドとして存在感を強めている。
特徴的なのは、外資ファンドによく見られるレバレッジ運用ではなく、自己資金による実需型投資を基本とする点だ。
今回の報告でも取得資金の総額は38億円(3,807,593千円)に達するが、借入金はゼロ。純粋に自己資本で株式を取得している。
取引の軌跡
「日々少しずつ」積み上げた買い増し戦術
報告書によれば、TSKは2025年7月中旬から10月初旬にかけて、連日のように市場内で取引を行っていた。
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7月18日~8月9日:株価880~910円台で小口買いを繰り返し
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8月下旬~9月上旬:市場調整局面(株価620~700円台)で追加取得
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10月9日:直近で900株を578円で取得し、8.11%に到達
一度に大量取得するのではなく、下落局面で拾い、長期で保有する典型的なバリュー投資型スタイルをとっていることが分かる。
この手法は、短期的な株価影響を避け、流動性の薄い中小型株を支配的に握る際に多用される“静かな買い増し”戦術だ。
ターゲット企業・ダントーホールディングスの背景
ダントーホールディングスは、タイル・建材事業を主軸とする老舗企業で、近年は再生エネルギー関連素材や建材リサイクル事業など環境対応型製造業へと舵を切っている。
市場評価は依然として低く、PBR(株価純資産倍率)は1倍を大きく下回る。
中小型製造業に共通するこの“低評価構造”は、外資・独立系投資家にとって企業価値再生の余地が大きい投資対象でもある。
TSKによる買い増しは、こうした「割安だが基礎資産が強い企業」への実需投資・再評価戦略の一環とみられる。
視点と論点
越境型日系資本の新潮流
TSKは、米国籍を持ちながら日本市場でのプレゼンスを拡大する「越境資本」の典型例。
国内金融機関が手控える中、こうしたファンドが日本の中堅企業の“資本受け皿”となりつつある。
純投資の名を借りた“戦略的関与”
報告書上は「純投資」とされているが、長島氏のバックグラウンドや投資手法からすれば、経営改革を促す“静かなアクティビスト”としての要素を否定できない。
中小製造業の資本再編の火種
ダントーホールディングスのような企業に外資・独立資本が入ることで、経営ガバナンスや事業ポートフォリオ再編が進む可能性がある。
これは、日本の中小企業再生市場の活性化を象徴する出来事でもある。
「静かなる資本」が動かす地方製造業の未来
TSK Capital Partnersによるダントーホールディングス株の8.11%取得は、数字以上の意味を持つ。
それは、在米日系資本が再び日本市場に回帰し、“産業の現場”に直接関与し始めた兆候である。
借入に頼らず、地に足のついた自己資金で中堅企業の株式を積み上げる――
このアプローチは、かつての“財閥型資本主義”とも、近年の“ハゲタカファンド型投資”とも異なる。
それは、日本的経営文化を理解しつつ、資本の論理で企業を再生させる新しい資本主義の形である。
──「静かに、だが確実に」動き出した在米日系資本の波。
その先には、老舗企業の再生と、日本製造業の新たな夜明けが見えている。