
外食再生に動く“ポストPEファンド”の正体
報告書が示す動き
2025年10月8日、グロースパートナーズ株式会社(代表取締役・古川徳厚)が、ヴィア・ホールディングス(7918、東証スタンダード)の株式28.40%を保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は10月3日。保有株式総数は18,101,500株で、これにはE種優先株式1,500株および第28回新株予約権18,100,000株相当分が含まれている。
保有目的には「発行者との業務資本提携を目的とした保有」と明記されており、単なる投資ではなく経営再建と事業統合を見据えた戦略的保有であることがわかる。
グロースパートナーズとは何者か
グロースパートナーズ株式会社は2022年設立の独立系投資会社であり、本社は東京・自由が丘に所在する。
代表の古川徳厚氏は金融畑出身で、過去に国内大手ファンドや企業再生案件に携わってきた人物。
同社の事業領域は、
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企業戦略立案・再成長支援
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コーポレート・ファイナンスおよび投資助言・M&A・資本政策アドバイザリーであり、PEファンド的性格を持ちながらも、短期売却益を狙う従来型とは異なり、「中長期の企業成長を共創するリビルド型ファンド」を標榜している。
出資の構造
ファンドを介した優先株と新株予約権
報告書によると、古川氏とグロースパートナーズは共同でGrowth Partners LLPを通じて「GPファンド」を運用しており、このファンドがヴィアHDへの出資主体となっている。
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E種優先株式:1,500株(1株=100万円)
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第28回新株予約権:18,100,000株分(1個=70円)
合計で約75億円超の出資規模となる。
このうちグロースパートナーズと古川氏がそれぞれ半数ずつ保有しており、報告書上の保有割合は各16.55%、合計で28.40%に達する。
契約上の制約と経営関与の枠組み
GPファンドは2025年8月12日に締結した「引受契約」に基づき、以下の制約条項に合意している。
金銭対価請求権の制限
E種優先株式は2028年10月3日まで金銭対価の取得請求を行わない。
新株予約権の行使制限
2026年10月3日まで原則として権利行使を行わない。
新規株式発行時の優先引受権
発行者が第三者に新株やワラントを発行する際、GPファンドに同条件での優先引受権が付与される。
これらの条項からは、短期利益を目的とするファイナンスではなく、3年以上のスパンで経営再建を見据えた資本参画であることが読み取れる。
ヴィア・ホールディングス再生の行方
ヴィア・ホールディングスは「いち五郎」「備長扇屋」「紅とん」などを展開する外食企業グループ。
コロナ禍で大きく業績が悪化し、2023〜24年にかけて不採算店舗の整理と再建を進めていたが、依然として財務体質の脆弱さを抱えている。
グロースパートナーズの出資は、この再建局面における資本支援にあたる。
ファンド出資により財務基盤を強化しつつ、店舗再編・ブランド統合・サプライチェーン改革を同時に進める「再構築フェーズ」に入ったといえる。
報告書に示された取得資金は約7億5,600万円(GPファンドの出資金)。
これもすべて組合出資による自己資金であり、借入によるレバレッジ運用はない。
視点と論点
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資本政策と経営支配の中間点
優先株+ワラントの組み合わせは、企業支配を急がずに資本構造を安定化させる設計。経営と投資家の“共存関係”を意図している。 -
外食業の再編トリガー
同社の介入は、居酒屋チェーン業界再編の契機となる可能性がある。特に、資金難に陥る地方外食企業への波及が予想される。 -
「次世代PE」モデルの確立
金融と経営の中間に立ち、企業再生と市場再評価の双方を担う存在。グロースパートナーズは、従来のハゲタカ型PEとは異なる日本型ハンズオン投資を体現しようとしている。
“共創型資本主義”の現場から
グロースパートナーズと古川徳厚氏によるヴィア・ホールディングスの28.4%保有は、単なる投資ではない。
それは、資本の論理と経営の現場を接続する新しい資本主義の実験である。
外食業界の再編が加速するなかで、金融ではなく“事業の手触り”を知る投資家が現場に入る──。
この流れが本格化すれば、ポスト・コロナ日本の産業再生の鍵は「ハンズオン・キャピタル」にあることを証明することになるだろう。