リソー教育グループ──教育を資本化する時代への転換点

ヒューリック傘下で再編される“教育インフラ企業”の実像

■ 企業概要:個別教育の老舗から「教育インフラ企業」へ

株式会社リソー教育グループ(本社:東京都豊島区目白)は、半世紀にわたり日本の教育サービス市場を牽引してきた老舗である。

その出発点は、1対1の進学個別指導塾「TOMAS(トーマス)」に始まり、家庭教師派遣の「名門会」、幼児教育・受験支援の「伸芽会」、体験学習・合宿教育を展開する「プラスワン教育」など、乳幼児から大学受験生までを網羅する垂直統合型の教育ブランド群を形成してきた点にある。

他の塾チェーンとは異なり、同社は「一人ひとりに最適化された教育」という理念を中心に据え、大量画一型ではなく“職人型”の教育サービスを追求してきた。

特に伸芽会は名門幼稚園・小学校の受験指導で圧倒的なブランド力を持ち、TOMASは完全マンツーマン体制による高単価モデルを確立。

教育業界の中でも高所得層・都市圏を中心に安定した顧客基盤を維持している。

近年はヒューリック株式会社を筆頭株主(持株比率51.01%)に迎え、教育×不動産×スポーツを融合した新しい都市型教育モデルを展開。

2025年4月にはコナミスポーツ、ヒューリックと共同で開発した教育特化型複合施設「こどもでぱーと」(中野・たまプラーザ)を同時開業させ、

“1歳から大学受験まで囲い込む”長期教育プラットフォームを本格稼働させた。

そして2025年9月、社名を「リソー教育グループ」と改め、持株会社体制へ移行。

これにより、グループ各社の経営・財務・人事・デジタル戦略を統合管理し、

教育サービスを資本市場と直結させる「教育の経営化」路線が鮮明となった。

第41期中間決算サマリー(2025年3月〜8月)

指標 前年同期比 金額(千円)
売上高 +1.1% 16,762,522
営業利益 ▲46.6% 779,218
経常利益 ▲45.1% 800,190
親会社株主に帰属する中間純利益 ▲38.2% 552,097
総資産 ▲3.2% 21,396,527
自己資本比率 ▲1.2pt 50.8%
営業CF ▲99.3% 21,729
現金残高 ▲30.5% 6,225,412

売上は微増ながら、営業・経常利益ともに半減

営業キャッシュフローも前期比▲99%という異例の落ち込みを見せた。

これは新校舎開設、人材採用強化、DX投資、広告宣伝などのコストが集中したことが主因で、

「持株会社化前の仕込み期」による戦略的支出と見られる

セグメント別動向

個別教育の飽和と提携事業の伸長

事業セグメント 売上高(百万円) 前年比 主な動向
TOMAS(個別指導) 8,400 +0.1% 生徒数計画下振れも新校舎4校開設。リニューアル多数。
名門会(家庭教師) 2,370 +4.4% 京都駅前・星ヶ丘校開設で全国展開を拡大。
伸芽会(幼児教育) 3,095 ▲0.8% たまプラーザ・中野に新拠点も受験局で減収。
スクールTOMAS(学校内個別) 1,839 +7.9% BtoB提携(学校法人向け)事業が拡大。
プラスワン教育(情操教育) 1,045 ▲4.4% 合宿事業は回復鈍化。体験型教育の再構築を進行中。

同社の課題は、主力のTOMAS・伸芽会が成熟・競争飽和を迎えた一方で、

学校法人向けの「スクールTOMAS」や提携型プログラム(UNI SOUNDとのリユース教育事業など)が伸びている点にある。

この構造変化は、塾産業がBtoC(家庭直販)からBtoBtoC(学校・企業連携)へ移行しつつある兆候だ。

キャッシュフローと財務構造

攻めの投資か、過剰支出か

営業CFは21百万円と実質ゼロ水準。

投資CFでは有形固定資産取得(▲756百万円)、無形資産取得(▲278百万円)が重くのしかかり、

フリーキャッシュフローは約▲1,000百万円のマイナス。

財務CFでは配当1,695百万円を支払い、結果として現金残高は前期末比▲2,727百万円の6,225百万円へ減少した。

総資産は21,396百万円、自己資本比率50.8%。

利益剰余金の減少が響き、純資産は1,095百万円減の10,938百万円。

財務的には安定しているものの、キャッシュ創出力の弱体化が鮮明だ。

このままの構造では、持株会社化後の再投資に必要な内部留保が枯渇するリスクもある。

 資本構造

ヒューリックが実質的支配権を確立

大株主 持株比率
ヒューリック株式会社 51.01%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 6.77%
学校法人駿河台学園 6.06%
岩佐実次氏 3.50%

2024年5月の第三者割当増資でヒューリックが過半数を取得。

この結果、リソー教育グループはヒューリック傘下の教育事業中核企業として位置付けられた。

今後、教育施設開発と不動産運用が一体化し、教育を“アセット”として扱うビジネスモデルがさらに加速すると見られる

教育の理念と資本の論理、その狭間で

リソー教育グループの持株会社化は、教育産業の将来像を象徴している。

すなわち、「教育を金融・不動産と並ぶ経済インフラとして位置付ける」試みである。

だがその裏で問われるのは、理念と資本のバランスだ。

教育が「効率化」「収益性」という尺度で再編されるとき、

子どもたちの多様な学びを支える“現場の倫理”が維持できるのか。

ヒューリックが求めるのは投資リターンであり、リソー教育が掲げるのは子どもの未来。

この二つを同時に成立させる経営構造を築けるかどうかが、同社が“教育企業”から“教育資本企業”へ進化できるかを決定づける。

「教育を支配する構造」が変わる

本決算は、単なる減益報告ではない。

教育という非営利的領域が、資本市場の論理と結びつく転換点に立っていることを示す。

リソー教育グループの歩む道は、日本の教育産業全体の未来をも照らす試金石となるだろう。

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