投資家フォウ・ジョン・チ・チョン、トライアイズを5.06%取得

“静かな個人アクティビスト”が日本市場に現れる

大量保有報告書の提出

トライアイズ株5.06%の異彩

2025年11月10日、Fou John Chi Chong(フォウ・ジョン・チ・チョン)氏が提出した大量保有報告書により、
株式会社トライアイズ(東証スタンダード・4840) の株式を5.06%保有していることが明らかになった。

報告義務発生日は2025年11月4日。保有株数は42万株で、発行済株式数830万株に対して5.06%を占める。

提出者は個人投資家であり、所在地は東京都大田区と記載されている。

この報告により、トライアイズの株主構成に個人の名が踊ることとなった。

しかも、同氏の保有目的は「純投資」と記載されているが、その取得過程を見ると組織的・戦略的な意思を感じさせる

取得の軌跡

“一撃ではなく、計算された連続投下”

報告書によれば、フォウ氏は2025年9月から11月初旬にかけて、
市場内で細かく分散しながら株式を取得している。

日付 株数 区分 備考
9月11日~10月3日 約10回にわたり小口で取得 市場内取引 1万~2万株単位で分散購入
10月6日~10月24日 集中投下 市場内取引 2~3万株単位の買付増加
11月4日 8,000株 市場内取引 報告義務発生日当日、最終取得

取得単価や売買比率は非開示だが、
平均取得単価は1株当たり約425円前後(資金総額178,500千円)とみられる。

同氏は自己資金のみで取得しており、借入金・信用取引は一切なし

つまり、フォウ氏は“個人アクティビスト”として珍しい、
レバレッジを使わない純粋な資本戦略投資を実行している。

トライアイズという企業

“再評価されつつあるプロジェクト型集団”

トライアイズは、情報通信分野を中心に、ITコンサルティング・広告・映像制作などを手がける多事業型ベンチャーグループである。

主力子会社には、制作スタジオ「アクトアゲンシー」や、ソフトウェア開発会社「ネオジャパンエンジニアリング」などが含まれる。

同社はこれまで、売上50億円規模ながらも高収益率・キャッシュリッチ体質を維持しており、
PBR0.7倍前後という“典型的な低評価銘柄”に該当していた。

フォウ氏が狙ったのはまさにこの「構造的割安と潜在的再成長余地」だ。

短期トレードではなく、経営層との対話余地を残した中期戦略投資の色が濃い。

個人アクティビストの台頭

“静かに、そして制度的に”

個人による5%超の大量保有報告は、
かつての村上ファンド以降、ほぼ外資系や機関投資家に限られてきた。

だが、フォウ氏の登場は新しい。
EDINET登録の正式書類としての提出、資金源が全額自己資金、取引経路が市場内限定──
これは法制度の範囲内で最大限の主張を行う新型アクティビストの姿である。

重要なのは、報告書の(3)「重要提案行為等」欄に何も記載がない点だ。

すなわち現時点では、提案権の行使を留保している“観察フェーズ”

この姿勢は、

“まずは企業と市場を観察し、対話の余地を測る”
というアクティビズム第1段階の典型である。

資金構造

1785万円の「重い一手」

報告書末尾には、取得資金の内訳が記載されている。

自己資金:178,500千円(約1億7850万円)
借入金:なし

一般的な個人投資家としては破格の金額である。
だが、この金額は日本の中小上場企業の5%ラインを突破するのに必要な現実的水準でもある。

つまり、フォウ氏の動きは「偶然の投資」ではなく、
“資本構造を理解したうえでの制度的プレイ”に他ならない。

いわば「個人版ファンドマネージャー」としての自覚を感じさせるものだ。

論評

“マイクロキャップ市場の民主化”が始まった

フォウ・ジョン・チ・チョン氏の動きは、
単に1人の個人投資家が大量保有報告を提出したというニュースではない。

それは、マイクロキャップ市場の新しい民主化のサインである。

従来、上場企業における株主影響力は、
海外ファンドや機関投資家によって独占されてきた。

しかし、制度が整備された現在、個人でもルールに則り“議決権を伴う意思”を市場で表明できる時代となった。

フォウ氏はその“制度の隙間”を突いたのではなく、
制度そのものを正しく使いこなすタイプのアクティビストである。

それは、乱暴な物言いをせず、敵対的買収も仕掛けず、
市場の透明性と企業価値向上を同時に追う、“静かなプロ”の姿勢だ。


“アクティビズムの再定義”

個人が市場を変える時代

日本市場は、いま静かにアクティビズムの第3章に入った。

村上世代が示した「経営への直接攻撃」でもなく、
外資勢が進めた「ガバナンス要求」でもなく、
フォウ氏が体現したのは“対話と制度の活用による経営関与”だ。

トライアイズというニッチ企業が選ばれたのも象徴的だ。

情報産業・広告・IT支援という分野は、
資本政策が弱く、個人株主が最も入りやすい構造を持つ。

そして、5.06%という数字は偶然ではない。
それは、「市場を語る資格」を持つ者の閾値である。

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