
ソフトバンクグループ株式会社――「OpenAI 3兆円賭け」の衝撃と、評価益経済の臨界点
■決算概要(2025年4月〜9月期)
| 指標 | 今期(中間期) | 前期(通期) | 増減 |
|---|---|---|---|
| 親会社株主に帰属する純利益 | 2兆9,240億円 | ▲2兆4,336億円 | +4兆円超 |
| 税引前利益 | 3兆6,860億円 | ▲1兆8,963億円 | +5兆円超 |
| 営業利益 | 3兆2,784億円 | ▲1兆6,471億円 | +4兆9,000億円 |
| 総資産 | 49兆2,000億円 | 45兆1,000億円 | +9% |
| 自己資本比率 | 29.1% | 25.7% | +3.4pt |
| 有利子負債(連結) | 20兆1,000億円 | 18兆9,000億円 | +1.2兆円 |
| 現金・現金同等物 | 4兆9,800億円 | 3兆7,100億円 | +1.27兆円 |
OpenAI投資が押し上げた「2兆円の幻影利益」
今期のソフトバンクを語る上で避けて通れないのがOpenAIへの巨額出資である。
4月に100億ドル(約1.5兆円)を出資し、年末にはさらに300億ドル(約4.5兆円)を投じる予定。
これが投資利益のほぼすべてを形成している。
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未実現評価益:9,805億円
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フォワード契約評価益(OpenAI持分移管分含む):1兆1,762億円
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計2兆1,500億円超がOpenAI関連の投資評価益
つまり、今期利益の大半は「現金化されていない評価益」に由来する。
SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)を通じて計上されるこの利益は、実際のキャッシュ創出力とは異なる性質を持つ。
論評社注:
SBGは「OpenAIの勝ち馬」に乗ることで瞬間的に評価を回復したが、
それは“利益”ではなく“含み”に過ぎない。
評価益経済の限界はすぐそこにある。
資金繰りの実態
売却と借入の合わせ技
今期は資産売却+ブリッジ借入+社債発行+担保拡張で、OpenAI出資資金を確保した。
資金調達の主要構成
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T-Mobile株売却:91.7億ドル
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ドイツテレコム株カラー取引の精算:23.7億ドル
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NVIDIA株全株売却(10月):58.3億ドル
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ブリッジローン:85億ドル
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Arm株マージンローン枠拡大:200億ドル(未使用115億)
資産を売り・株を担保に入れ・社債を発行する――この三段構えのレバレッジ構造がSBGの生命線である。
だが、金利上昇局面においてこの戦略は「資産価格依存」を極限まで高めている。
SVFの復権と孫正義“個人保証”の重さ
SVF損益構成(投資利益)
| ファンド | 投資利益 | 主な寄与要因 |
|---|---|---|
| SVF1 | 1兆3,700億円 | Arm株売却益、残存評価益 |
| SVF2 | 2兆300億円 | OpenAI・AIロボティクス |
| LatAm | 約900億円 | 配当・再評価益 |
SVFは、久々の「プラス収益転換」を果たした。
しかし同時に、関連当事者取引の複雑さが目立つ。
孫正義個人が保証する「MgmtCo(経営陣SPV)」の構造では、
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年3%のプレミアム付き借入金
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株式譲渡制限(130%→200%閾値)
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孫氏の個人担保(SBG株預託)
が設定されており、
“創業者リスク”がグループ全体の信用と一体化している点は看過できない。
セグメント別分析
Armと通信は地に足、AIロボは攻勢
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Arm:ロイヤルティ+22.9%、ライセンス+22.6%、売上全体で+22.7%。
新アーキテクチャ「Armv9」が好調で、世界の半導体IP支配力を再拡大。 -
ソフトバンク事業(通信):売上3.4兆円、利益5,919億円。
PayPay・LINEヤフー・クラウド基盤が堅調。 -
AIロボ事業:ABBロボティクス買収(53.7億ドル)を発表し、製造業AI統合戦略を始動。
SBGは、「Arm × OpenAI × ロボ」三層構造のAI帝国を描き始めている。
ガバナンスとリスク指標「評価益で守る信用」
財務コベナンツ
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純資産維持義務(社債)
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現預金 ≧ 1年内償還社債額
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シニア有利子負債 ≦ 保有上場株価値の70%
これらの条件は株価・評価益連動であり、
市場の下振れが即座に信用リスクへ波及する構造。
一方で自己株買い・分割による株主還元策も強化された。
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自己株買い:3,303億円
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消却:4,203万株(10月)
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株式分割:1→4(2026年1月)
株価は一時9,000円台を突破したが、
「評価益バブル」的な性格が強い上昇であることも否めない。
“AI帝国”の果実と崩壊リスク
ソフトバンクは再び「夢の数字」で市場を魅了した。
だが、冷静に見れば――
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利益の8割以上が未実現評価益
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OpenAIへのフォワード契約評価益という特殊会計
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株主価値は実キャッシュではなくNAV幻想
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孫氏個人の保証・担保依存構造
という、極めて脆い金融建築の上に立つ。
結論:SBGは「未来に賭けるファンド」から「評価益を現金化し続ける企業体」へと変質した。
AI帝国の構築は壮大だが、その土台は信用市場に依存するガラス細工。
ArmとOpenAIが描く理想のAI連携が実体収益に転じなければ、
次の一手は「評価損リスク」という現実だ。

