サイバー・バズ(7069)決算検証

貸倒ショック後の「回復」は本物か

サイバー・バズの2025年9月期決算は、前期の大幅赤字から一転して黒字へと回復した。

売上高は7,131百万円と微減にとどまる一方、営業利益は349百万円を確保。表面的には「V字回復」と映るが、この数字をそのまま評価するのは早計だ。

本決算は、異常損失の剥落による反動と、財務構造の整理・圧縮によって成立している側面が大きい。

本稿では、損益の回復要因、バランスシートの変化、収益構造と株主構造の論点を順に整理し、黒字化の持続性を検証する。

黒字転換の全体像

2025年9月期の連結業績は以下の通りだ。

  • 売上高:7,131百万円(前期比▲4.4%)

  • 売上総利益:2,694百万円

  • 販管費:2,344百万円

  • 営業利益:349百万円

  • 親会社株主に帰属する当期純利益:385百万円

注目すべきは、売上が減少しているにもかかわらず、利益が大きく改善している点である。

その最大の要因は、販管費の大幅な縮小だ。

販管費“半減”の正体

前期の販管費は4,620百万円と異常に膨らんでいた。

その主因は、特定取引先の入金遅延を背景とする多額の貸倒引当金繰入である。

この異常コストが今期は発生していない。つまり、今期の黒字転換は「収益力の急回復」というより、前期に一度沈めたP/Lが元の水準に戻ったという性格が強い。

会社側は、前期に付されていた継続企業の前提に関する注記を解消し、営業利益・営業キャッシュフローの回復、長期資金調達の完了をもって財務不安は後退したと説明している。

しかし論点は明確だ。

  • なぜ、これほどの貸倒が発生したのか

  • その原因は、構造的に解消されたのか

黒字化を評価する前に、与信管理・回収体制が本当に改められたのかを問う必要がある。

資産圧縮型の改善

バランスシートの変化は、損益以上に示唆的だ。

  • 現金及び預金:528百万円 → 1,276百万円

  • 売掛金:3,236百万円 → 1,029百万円

  • 短期借入金:850百万円 → 500百万円

売掛金が急減し、同時に現金が大きく積み上がっている。これは単純な利益蓄積ではなく、資産の圧縮・現金化による財務再構築の結果と見るべきだ。

さらに、投資キャッシュフローでは敷金・保証金の回収による大きなプラスが発生している。

短期負債を圧縮し、流動性を確保するという点では合理的な動きだが、ここにも問いが残る。

  • 売掛金減少は、取引条件の改善なのか

  • それとも、リスクの高い取引を切った結果、売上機会も失っていないか

財務は整った。しかし、成長との両立が次の試金石となる。

SMM事業と特定顧客依存

セグメント別では、SMM(ソーシャルメディアマーケティング)事業が圧倒的な収益源である。

  • SMM事業:売上6,610百万円、利益1,187百万円

  • ライブ配信事業:売上423百万円、利益29百万円

  • その他事業:売上97百万円、利益22百万円

ここで無視できないのが顧客集中リスクだ。主要取引先の一つが売上全体の約4分の1を占めており、収益構造は決して分散されていない。

特定顧客との強固な関係は安定性をもたらす一方、価格交渉力の偏りや、契約条件の変更による業績変動リスクも内包する。

アクティビスト的に見れば、利益率の持続性は顧客集中の統制にかかっている

資本提携は追い風か、支配か

株主構成では、創業者に次ぐ主要株主として、セレスが約19%を保有している点が目を引く。

資本業務提携を通じたプロダクト連携や事業協業が掲げられているが、評価はまだ定まらない。

論点は次の3点に集約される。

  • 提携が売上・利益として可視化されるのか

  • 経営判断に対する影響力はどこまで及ぶのか

  • ガバナンス上の均衡は保たれているのか

資本提携は成長のエンジンにも、経営の制約にもなり得る。ここは今後の開示で厳しく見極める必要がある。

攻めと統制の分岐点

期末後、同社は社債の繰上償還や、新規子会社設立を通じた事業拡張の動きを見せている。

財務不安が後退した直後に「攻め」に転じる姿勢は評価できるが、過去の貸倒ショックを踏まえれば、慎重さも同時に求められる。

新規事業や投資が、再び信用コストの膨張を招かないか。ここを制御できなければ、黒字化は一過性に終わる。

黒字化は通過点にすぎない

2025年9月期の黒字転換は事実だ。しかしその多くは、前期の異常損失が剥落した反動と、財務の整理によって実現したものである。

市場が次に問うのは、「同じ失敗を繰り返さない仕組みを持ったまま、成長できるのか」この一点だ。

売上の再成長、与信・回収体制の強化、資本提携の実効性。

これらが数字として示されて初めて、今回の黒字は“本物の回復”と評価される。

論評社としては、来期決算こそが真の試金石になると見ておきたい。

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