HEROZ(4382)半期決算検証

「AI成長物語」は次の段階へ進んだのか

利益改善の裏に残る“構造リスク”を読む

HEROZの2025年10月期中間決算は、AI関連銘柄としては一定の説得力を持つ内容となった。

売上高は30.9億円と前年同期比9.6%増加し、営業利益は2.59億円と約3倍に拡大。

経常利益も2.13億円まで伸び、EBITDAは前年同期比で約7割増と、数字だけを見れば「AI需要を取り込んだ成長企業」の姿が浮かび上がる。

この決算はどのような構造で改善したのか、そしてその改善は持続するのか

さらに言えば、株主価値にどこまで結びついているのか

本稿では、表層的な成長評価を排し、HEROZの半期決算を構造的に読み解く。

「好調」に見える半期決算

2025年10月期中間(連結)の主要数値は以下の通りだ。

  • 売上高:30.9億円(前年同期比+9.6%)

  • 営業利益:2.59億円(同+191.2%)

  • 経常利益:2.13億円(同+331.6%)

  • 親会社株主に帰属する中間純損失:▲0.14億円(前年同期▲1.18億円)

  • 自己資本比率:56.9%

営業段階では明確な黒字を確保しており、前年同期と比べれば大きな改善だ。

一方で、最終損益はなお赤字にとどまり、「利益が出ているのに、株主にはまだ届いていない」という状態が続いている。

この点は、AI銘柄としての評価を一段引き下げて冷静に見る必要がある。

利益改善の内訳

営業利益が急伸した背景には、単なる売上増だけでなく、コストコントロールの効きがある。

売上総利益は13.7億円まで拡大し、販管費はほぼ横ばいに抑えられた。広告宣伝費の選別や、効率的な人員配置が奏功した格好だ。

セグメント別に見ると構図は明確である。

AIX事業

  • 売上高:16.8億円(前年同期比+14.0%)

  • セグメント利益:3.06億円

生成AI、AIエージェント関連の需要増を背景に、BtoB領域が10.4億円まで拡大。

実証実験フェーズから本格導入フェーズへ移行する企業が増え、HEROZのAIソリューションが「PoC止まり」ではなく、業務実装として採用され始めている点は評価できる。

AI Security事業

  • 売上高:14.1億円(同+4.8%)

  • セグメント利益:4.94億円

セキュリティBPOやマネージドサービスを中心に安定成長を維持。

ただし、成長率はAIX事業ほど高くなく、成長エンジンはAIX側にシフトしていることが読み取れる。

のれんという重さ

この決算で最も慎重に見るべきは、バランスシートだ。

中間期末時点でののれん残高は約18.4億円。総資産約80.7億円に対して、決して軽い数字ではない。

のれんは将来収益の裏返しである一方、収益が想定通りに出なければ、一気に減損という形で表面化する。

AI市場の成長が鈍化した場合、あるいは競争が激化した場合、こののれんが「評価資産」から「リスク資産」に変わる可能性は常に存在する。

さらに見逃せないのが、非支配株主持分の増加だ。

純資産は増加しているが、その主因は非支配株主持分の増加(約1.35億円)であり、親会社株主に帰属する利益剰余金は大きく積み上がっていない。

つまり、

  • 事業は成長している

  • 利益も出始めている

  • しかし、その果実は必ずしも親会社株主に集中していない

という構造が続いている。

キャッシュフローが語る「現実」

キャッシュフローを見ると、経営の実像がより鮮明になる。

  • 営業CF:+0.93億円

  • 投資CF:▲1.53億円

  • 財務CF:▲2.41億円

  • 現金残高:28.4億円(前期末比▲3.0億円)

営業活動では現金を生み出しているものの、研究開発投資や無形資産投資、借入返済によって現金は着実に減少している。

これは成長企業として自然な姿でもあるが、今後も投資を続ける以上、利益の質が問われるフェーズに入ったとも言える。

アクティビスト目線の核心論点

HEROZは「AI BPaaS」「AIエージェント」「AIX」という、極めて時流に乗った言葉を掲げている。

だが、市場が次に見るのはストーリーではない。

論点は次の3点に集約される。

  1. AIX事業の成長が、一過性の案件収益ではなくストック型収益にどこまで転化できるか

  2. のれんを正当化できるだけの持続的な営業キャッシュフローを生み出せるか

  3. 非支配株主持分が厚い構造の中で、親会社株主価値をどう高めるのか

AIという言葉が評価を押し上げる時代は、すでに終わり始めている。

論評

「AI銘柄」の次を示せるか

今回の半期決算は、HEROZがAI成長物語の“入口”を通過したことを示している。

一方で、M&Aの蓄積、のれん、株主構造といった過去の重さは依然として残っている。

次に市場が問うのは、「AIで売上を伸ばした企業」から「AIで株主価値を増やせる企業」へ進化できるのか、この一点だ。

通期での最終黒字化、営業キャッシュフローの拡大、そしてのれんを巡る説明責任。

これらが揃ったとき、HEROZは真に評価フェーズに入る。

論評社としては、本決算を楽観でも悲観でもなく、検証フェーズに入った決算と位置づけ、今後も継続的に監視していきたい。

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