
V字回復を遂げた不動産プラットフォーム企業
株式会社アールプランナー(証券コード:E33944)は、「注文住宅」「分譲住宅」「土地」の3つの事業をワンストップで提供する不動産プラットフォーム企業である。
2021年2月に東証マザーズ市場(現在の東証グロース市場)に上場し、名古屋を中心に首都圏へと事業エリアを拡大している。
2025年1月期の有価証券報告書によると、同社は前期比25.3%増の売上高40,185百万円、前期比460.1%増の経常利益2,002百万円と大幅な増収増益を達成し、コロナ禍や資材高騰の影響で低迷していた業績からV字回復を遂げた。
本稿では、同社の財務内容を徹底的に分析し、今後の成長性と投資価値について考察する。
企業概要と事業モデル
株式会社アールプランナーは2003年10月に設立され、「デザイン×テクノロジーで人々の住生活を豊かにする」というパーパスのもと、住宅事業を展開している。
同社の特徴は、注文住宅と分譲住宅の両方を手がけることで、顧客ニーズに合わせた住宅提供を可能にしている点にある。
主力ブランドは「アールギャラリー」(注文住宅)と「Fの家」(注文住宅)で、「デザイン」「性能」「価格」の3つの強みを兼ね備えたコストパフォーマンスの高い住宅を提供している。
特に20代から40代の顧客をメインターゲットとしており、デジタルマーケティングを活用した顧客獲得に強みを持つ。
事業セグメントは「戸建住宅事業」と「中古再生・収益不動産事業」に分かれており、戸建住宅事業が売上高の大部分を占めている。連結子会社には株式会社アールプランナー不動産があり、不動産仲介や中古不動産・収益不動産の取得・再生・販売事業を行っている。
財務分析:5年間の業績推移
売上高の推移と成長性
株式会社アールプランナーの売上高は5年間で約1.8倍に成長している。
- 2021年1月期: 22,012百万円
- 2022年1月期: 28,057百万円(前期比 +27.5%)
- 2023年1月期: 31,244百万円(前期比 +11.4%)
- 2024年1月期: 32,070百万円(前期比 +2.6%)
- 2025年1月期: 40,185百万円(前期比 +25.3%)
特に注目すべきは、2023年から2024年にかけて成長が鈍化した後、2025年1月期に再び力強い成長軌道に回帰した点である。
この背景には、分譲住宅の販売棟数が前期比35.6%増の594棟に達したことが大きく寄与している。注文住宅も325棟(前期比14.8%増)と回復傾向にあり、全体の販売棟数は1,053棟(前期比22.2%増)と大幅に増加している。
収益性の分析
収益性については、2022年1月期に高水準に達した後、2023年と2024年に大きく低下したが、2025年1月期には過去最高水準に回復している。
経常利益の推移:
- 2021年1月期: 523百万円(利益率 2.4%)
- 2022年1月期: 1,383百万円(利益率 4.9%、前期比 +164.3%)
- 2023年1月期: 506百万円(利益率 1.6%、前期比 -63.4%)
- 2024年1月期: 357百万円(利益率 1.1%、前期比 -29.4%)
- 2025年1月期: 2,002百万円(利益率 5.0%、前期比 +460.1%)
当期純利益の推移:
- 2021年1月期: 349百万円(利益率 1.6%)
- 2022年1月期: 960百万円(利益率 3.4%、前期比 +175.1%)
- 2023年1月期: 327百万円(利益率 1.0%、前期比 -65.9%)
- 2024年1月期: 221百万円(利益率 0.7%、前期比 -32.4%)
- 2025年1月期: 1,436百万円(利益率 3.6%、前期比 +549.8%)
2023年から2024年にかけての利益率低下は、不動産市場の変動や原材料価格の上昇などの外部要因が影響したと考えられる。
しかし、2025年1月期には事業効率の改善や販売棟数の増加により、大幅な収益性の改善を実現している。経常利益率5.0%、当期純利益率3.6%は、不動産業界の中でも比較的高い水準と言える。
財務状態の健全性
総資産は5年間で約1.8倍に増加し、事業規模の拡大を反映している。純資産も着実に増加しており、特に2025年1月期は前期比30.0%増と大きく成長している。
- 2021年1月期: 総資産16,022百万円、純資産2,296百万円
- 2022年1月期: 総資産22,555百万円、純資産3,926百万円
- 2023年1月期: 総資産24,224百万円、純資産4,254百万円
- 2024年1月期: 総資産25,404百万円、純資産4,355百万円
- 2025年1月期: 総資産28,866百万円、純資産5,664百万円
自己資本比率は徐々に改善傾向にあり、2025年1月期には19.6%まで上昇している。不動産業界の平均と比較するとやや低めだが、着実に改善しており、財務基盤の強化が進んでいることがわかる。
ROE(自己資本利益率)は2025年1月期に28.7%と高水準に回復しており、株主資本の効率的な活用が実現できている。
キャッシュフロー分析:成長投資から収益化へのシフト
キャッシュフローの推移
株式会社アールプランナーのキャッシュフロー状況は、成長投資期から収益化フェーズへの移行を明確に示している。
営業活動によるキャッシュ・フロー:
- 2021年1月期: 162百万円
- 2022年1月期: △2,456百万円
- 2023年1月期: △3,066百万円
- 2024年1月期: 608百万円
- 2025年1月期: 1,948百万円
投資活動によるキャッシュ・フロー:
- 2021年1月期: △290百万円
- 2022年1月期: △379百万円
- 2023年1月期: △468百万円
- 2024年1月期: △213百万円
- 2025年1月期: △323百万円
財務活動によるキャッシュ・フロー:
- 2021年1月期: 444百万円
- 2022年1月期: 3,619百万円
- 2023年1月期: 3,101百万円
- 2024年1月期: 18百万円
- 2025年1月期: 289百万円
現金及び現金同等物の期末残高:
- 2021年1月期: 2,443百万円
- 2022年1月期: 3,226百万円
- 2023年1月期: 2,793百万円
- 2024年1月期: 3,206百万円
- 2025年1月期: 5,121百万円
キャッシュフローの質的分析
2022年と2023年の営業キャッシュフローの大幅なマイナスは、事業拡大に伴う棚卸資産(販売用不動産や仕掛販売用不動産)の増加が主な要因と考えられる。
不動産業界では、土地の仕入れや建設中の物件への投資が先行するため、成長期には一時的に営業キャッシュフローが悪化することが一般的である。
2024年以降の営業キャッシュフローのプラス転換は、販売棟数の増加による収益性の向上と、在庫回転率の改善が寄与していると考えられる。
特に2025年1月期は1,948百万円と大幅なプラスとなり、事業の収益性と効率性が大きく改善していることを示している。
フリーキャッシュフロー(営業CF - 投資CF)も2024年からプラスに転じ、2025年1月期には1,625百万円と健全な水準に達している。
これは事業の成熟化と収益性の向上を示しており、自己資金での成長投資や株主還元の余力が生まれていることを意味する。
現金及び現金同等物の期末残高も2025年1月期には5,121百万円と前期比約60%増加しており、手元流動性が大幅に改善している。
これは不確実な経済環境においても事業を安定して運営できる財務基盤が構築されつつあることを示している。
投資指標と株主還元
投資指標の分析
2025年1月期の主要投資指標:
- EPS(1株当たり当期純利益): 270.13円
- BPS(1株当たり純資産): 1,065.61円
- PER(株価収益率): 5.1倍
- ROE(自己資本利益率): 28.7%
- 配当: 45.00円(配当性向17.6%)
- 株主総利回り: 87.0%
PERは5.1倍と業界平均と比較して低めであり、株価が割安に評価されている可能性がある。ROEは28.7%と高水準であり、株主資本の効率的な活用が実現できている。
株主還元の状況
配当は2023年1月期から開始され、2025年1月期には45.00円(前期15.00円)と3倍に増加している。配当性向は17.6%と比較的低めだが、配当額の大幅な増加は株主還元の強化姿勢を示している。
株主総利回りも87.0%と前期の42.1%から大幅に改善しており、投資家にとって魅力的な銘柄となっている。
ただし、東証グロース市場指数との比較では、2023年と2024年は市場平均を下回っていたが、2025年1月期には市場平均を上回る結果となっている。
成長戦略と今後の展望
株式会社アールプランナーは、「注文住宅」「分譲住宅」「土地」の3つの事業をワンストップで提供するビジネスモデルを強みとしている。
特にデジタルマーケティングを活用した顧客獲得に注力しており、Webサイトやデジタルコンテンツを通じて住宅購入を検討中の潜在顧客にアプローチする体制を構築している。
また、オーナー様向けアプリ「ARR PLANNER OWNERS CLUB」などを活用して住宅購入後のサポート体制を充実させるなど、LTV(Life Time Value/ライフタイムバリュー)向上を通じてお客様と生涯にわたりお付き合いしていく「生涯取引」を目指している。
今後の成長戦略としては、以下の点が注目される。
-
分譲住宅事業のさらなる拡大:2025年1月期の実績から、分譲住宅事業が大きな成長ドライバーとなっていることが明らかである。今後もこの分野での拡大が期待される。
-
首都圏エリアでの事業拡大:名古屋を中心とした事業から、首都圏エリアへの展開を進めており、市場規模の大きい首都圏での成長余地は大きい。
-
デジタルマーケティングの強化:顧客獲得においてデジタルマーケティングを重視しており、この分野でのさらなる強化が競争優位性を高める可能性がある。
-
アフターサービスの充実:住宅購入後の水災保険、アフターメンテナンス、リフォーム・リノベーションなどのサービス提供を強化することで、顧客生涯価値の向上が期待される。
投資判断のポイント
強み
- 「注文住宅」「分譲住宅」「土地」をワンストップで提供するビジネスモデル
- デジタルマーケティングを活用した効率的な顧客獲得
- 2025年1月期の大幅な増収増益とキャッシュフローの改善
- 高いROE(28.7%)と収益性の回復
- 手元流動性の向上(現金及び現金同等物5,121百万円)
リスク要因
- 自己資本比率(19.6%)は改善傾向にあるものの、業界平均と比較するとやや低い
- 不動産市況や金利動向の変化による業績への影響
- 原材料価格や人件費の上昇による利益率への圧迫
- 競合他社との差別化の持続可能性
投資判断
株式会社アールプランナーは、2025年1月期に大幅な業績回復を遂げ、収益性とキャッシュフローの両面で改善を示している。
PER 5.1倍という低評価に対して、ROE 28.7%という高い資本効率を実現しており、バリュエーション面での魅力は高い。
また、分譲住宅事業の拡大や首都圏エリアへの展開など、今後の成長余地も大きい。配当も前期の3倍に増加しており、株主還元の強化姿勢も評価できる。
一方で、自己資本比率はやや低めであり、不動産市況や金利動向の変化によるリスクには注意が必要である。しかし、手元流動性の向上や営業キャッシュフローの改善により、財務リスクは軽減されつつある。
総合的に判断すると、株式会社アールプランナーは「買い」と評価できる。特に中長期的な視点での投資価値が高く、今後の成長と株主還元の強化が期待される銘柄である。
まとめ
株式会社アールプランナーは、「注文住宅」「分譲住宅」「土地」の3つの事業をワンストップで提供する不動産プラットフォーム企業として、2025年1月期に大幅な業績回復を遂げた。
売上高40,185百万円(前期比+25.3%)、経常利益2,002百万円(前期比+460.1%)と増収増益を達成し、特に分譲住宅事業の拡大が成長を牽引している。
収益性とキャッシュフローの両面で大きな改善を示しており、ROE 28.7%、PER 5.1倍という指標は投資妙味が大きいことを示唆している。配当も前期の3倍に増加するなど株主還元も強化されている。
デジタルマーケティングを活用した顧客獲得や、アフターサービスの充実によるLTV向上など、今後の成長戦略も明確である。不動産市況や金利動向などのリスク要因はあるものの、財務基盤の強化が進んでおり、中長期的な投資価値は高いと判断できる。
投資家やトレーダーにとって、成長性と割安感を兼ね備えた魅力的な投資対象と言えるだろう。