
飲食の会社”が、いつから“太陽光と医療ファンド”になったのか?
企業背景:居酒屋から始まった会社が、いま「再エネ」と「医療」に手を出している理由
株式会社海帆(かいはん)は、東海地方を中心にレトロ居酒屋ブランドを展開していた中堅飲食企業である。
しかし、コロナ禍を機に店舗数は急減し、近年では“業態転換”と称して再生可能エネルギー事業・M&A・医療支援などへ急速に進出している。
この方向転換を可能にしたのが、2022年の公募増資で得た資金(手取金)である。
そして今回、その資金使途の「訂正報告書」が出された──本稿は、その“中身”と“構造”を解剖する。
訂正の要点:2年越しで明かされた“資金使途のズレ”
訂正の対象は、2022年3月に提出された有価証券届出書における「手取金の使途」である。
当初予定では:
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地代家賃・仕入資金等の未払費用:3.55億円
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運転資金(人件費・地代・仕入等):7.5億円
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店舗改装・撤退・新規出店:24.43億円
という、飲食事業の延命・再構築に使うはずだった資金が──訂正後はこうなっている:
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店舗関連(改装・撤退・新規出店等):9.76億円(大幅減)
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M&A:3億円(新設)
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太陽光発電子会社への出資:9.68億円(新設)
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医療設備取得を目的とした修永会への貸付:2億円(新設)
これにより、実に15億円近い資金が“非飲食セグメント”へ転用された構造が明るみに出た。
【第20期 財務指標(2023年3月期)概要】 ※訂正報告書に基づく
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売上高:未開示(飲食業単体での構造把握は困難)
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営業利益:継続赤字(過年度は▲8.7億円、同傾向続く)
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純利益:過去複数期連続で赤字、資本政策でしのぐ構造
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総資産:約15~20億円規模
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自己資本比率:30%未満(実質債務超過寸前の水準)
【キャッシュフロー構造(2022~2023年)】 ※IR情報に基づく
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営業CF:黒字化できず(本業によるキャッシュ創出力低)
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投資CF:▲9.68億円(太陽光設備の出資=資金拘束)
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財務CF:一時的な公募増資に依存(資本的余裕なし)
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現預金残高:一時10億円超→現在は数億円規模へ減少傾向
再エネ投資の実態と“前渡金”リスク
訂正報告書によれば、9.68億円が「子会社への出資」として支出されたが、その子会社とは、再エネ事業(太陽光発電設備)を展開する特定目的会社である。
しかし、ここで気になるのは:
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太陽光設備は本当に取得されたのか
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それは収益化されているのか
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この出資金は実質的に「前渡金」扱いなのか
という資産の性格である。
現時点で発電開始・収入発生・減価償却開始等が未開示である限り、この支出は**「資金拘束された流動資産」=回収不能リスクを含む**。
修永会への貸付──なぜ医療法人に2億円も?
さらに驚くべきは、「修永会」なる医療法人への貸付金2億円。
使途は“医療設備の取得”とされているが、
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医療法人は返済能力をどう担保するのか?
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担保設定や金利条件は非開示
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貸付契約書の締結日・返済期限も不明
つまりこれは、投資ではなく“親密支援”の可能性が高い貸付であり、将来的な焦げ付きリスクが極めて高い。
しかも、当該法人は海帆の連結範囲外であり、資金の流れは“対外的な第三者支援”として処理されている。これは、会計処理の回避にもなりかねない。
M&Aへの3億円も“どこに何を買ったか”不明
資金使途には新たに「M&A資金」として3億円が追加されているが、現時点で:
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買収対象企業の名前
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買収完了時期
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取得価額とPMI戦略
のいずれも開示されていない。
これは、「資金は支出したが、どこに使われたのかは見えない」状態であり、IRの説明責任としても重大な瑕疵である。
“訂正報告書”としての意味──2年遅れの自己否定
今回の訂正報告書の最大の問題点は、この変更が2022年の開示から2年経ってようやく出されたという点である。
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なぜ変更の時点でTDnet開示されなかったのか?
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調達時に意図していた再エネ投資を“隠していた”のではないか?
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規制当局(財務局・東証)はなぜ指摘しなかったのか?
これは、開示の適時性・透明性において重大なガバナンス問題であり、株主軽視の構造的兆候として強く批判されるべきである。
海帆は“生き残るために手段を選ばなくなった”のか?
飲食企業としてスタートした海帆は、コロナ禍を経て変貌した。
そして今やその資金の多くは、「再エネ会社」「医療法人」「未公開M&A」へと流れている。
しかも、それを開示したのは2年後──それが“訂正”という形であった。
この構造は、言い換えれば:
「公募増資で得た資金が、株主に説明しないまま他業種に流用された」
という事実である。
これは再生の物語なのか? それとも、延命のための資金操作なのか?
答えは、今後の収益構造に回収の兆しが見えるかどうかで決まる。