
粉飾か、合法の範囲か
財務ハイライト(第36期/2024年10月期)
項目 | 数値 | 前期比 |
---|---|---|
売上高 | 56億円 | ▲1.3% |
営業利益 | 1.15億円 | 黒字転換(前期:▲26.5億円) |
経常利益 | 1.38億円 | 黒字転換(前期:▲29.6億円) |
親会社株主に帰属する当期純利益 | 3,064万円 | 黒字転換(前期:▲42.8億円) |
営業CF | +2.82億円 | 前期:▲17.5億円 |
暗号資産評価損 | 計54百万円(第3・第4Q) | 表示方法を変更(売上原価へ) |
黒字化の裏で「時期操作」された評価損
“粉飾”の構図
CAICA DIGITALが2025年6月に提出した訂正有価証券報告書は、一見すると形式的な開示修正に見える。だが、その中には「黒字化」の背景に利益操作の疑いをはらんだ重大な構造変更が隠されていた。
問題の核心は、「評価損の計上時期をずらした」点にある。
当初、同社は2024年10月期第2四半期において暗号資産の評価損(減損処理)を実施していたが、その後の調査で本来は2023年10月期末に行うべきだったことが判明。これにより、過去の財務諸表を訂正する運びとなった。
つまり、赤字期の評価損を一旦2024年度に“先送り”していたことを後から認めた形であり、これは典型的な利益かさ上げの構図=粉飾の疑いを抱かせる。
「売上高→売上原価」への表示変更も“演出”か?
さらに不可解なのは、評価損の表示科目変更である。
従来、CAICA DIGITALでは「市場性のない暗号資産の評価損」を売上高から差し引いていたが、第36期からはこれを売上原価へ組み替えた。
この変更により、売上高の見かけ上の減少は避けられ、営業利益が押し上げられる効果が発生する。
評価損の経済実態は変わらないにもかかわらず、「損失を見えづらくする意図」があったとすれば、これもまた形式的粉飾の一種と解釈できる。
UHY東京監査法人
“粉飾横行”の温床か?
ここで注目すべきは、同様の事案が別企業でも起きている点だ。
この訂正報告書では、監査法人がUHY東京監査法人であり、暗号資産評価の問題で訂正を公表した株式会社クシムと同一監査法人であることが明記されている。
-
クシム:暗号資産評価の不適切処理を巡り報告書を提出
-
CAICA:クシムの事例を“契機”にして自社も訂正に追い込まれる
この構図は、単なる偶然では済まされない。同一監査法人のクライアントで同種の評価損ズレが多発している事実は、監査品質の根幹に重大な疑義をもたらす。
キャッシュフローとの不自然な乖離
黒字転換を印象づける一方で、営業CF(+2.8億円)が営業利益(+1.1億円)を大幅に上回っている点にも注目したい。
一見すればキャッシュフロー改善の好材料だが、営業利益を上回る営業CFが連続して現れる場合、売掛金回収などの一過性処理や、受取前受金などの操作的要因が潜むことがある。
「何を隠すための黒字だったのか」
CAICA DIGITALが今回の訂正をもって「問題は解消した」とする一方で、このような“後出し訂正”がなければ投資家は誤った財務情報を基に意思決定を迫られていたという事実は、極めて重い。
しかも、監査法人も同種の案件を複数抱えるとなれば、それは個社問題にとどまらず、市場の信頼性自体を揺るがす構造問題である。
-
なぜ本来の期で評価損を認識しなかったのか?
-
なぜ監査法人はその処理を見逃していたのか?
-
同様の会計処理が他社でも横行していないか?
こうした問いを発し続ける必要がある。
粉飾の構図は単なる会計処理のミスではない──資本市場の倫理と規律そのものに対する背信行為である。