
自社プロダクトとM&Aの狭間で揺れる「三位一体モデル」
企業概要
テクミラホールディングスは、「ライフデザイン」「AI&クラウド」「IoT&デバイス」の3事業を主軸とするコンテンツ×IT×モノづくりの統合型DXグループ。
キャラクター・教育・健康といった生活分野におけるBtoC・BtoBアプリ(例:RenoBody、KarteConnect)、AIチャットボット「OfficeBot」、アドレス帳SaaS、さらには「aiwa」ブランドでのタブレットPCやIoTデバイスまで、自社開発・自社ブランド・受託開発を横断した“混成ポートフォリオ”を構築している。
2008年マザーズ上場(旧ネオス)、2023年にテクミラHDへ商号変更。直近では、ヘルスケアベンチャーWellmira、HRTechのRetoolなどを子会社化し、「自社プロダクト主体」への転換と「M&Aによる事業構築」戦略を加速している。
業績サマリー
(2024年3月~2025年2月)
指標 | 実績 | 前期比/備考 |
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売上高 | 111.7億円 | +27.8%(過去最高) |
営業利益 | +9,138万円 | 黒字転換(前期▲1.2億円) |
経常利益 | 1.03億円 | ▲22.6% 減益(有価証券売却益減) |
親会社純利益 | ▲1.41億円 | 赤字転落(減損・評価損) |
営業CF | +13.7億円 | 前期比+12億円超の大幅改善 |
投資CF | ▲11.8億円 | M&A・設備投資増加による支出増 |
現預金残高 | 29.6億円 | 安定水準維持(有利子負債:27.5億円) |
➡ 本業は黒字転換を果たすも、のれん償却と評価損による最終赤字が残った“ねじれ構造”。
セグメント別
三事業すべて増収、だが利益構造には差
セグメント | 売上高 | セグメント利益 | 前年比 | コメント |
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ライフデザイン | 31.3億円 | +7,731万円 | +46.8% | ゲームと健康DXの回復/医療系は不調 |
AI&クラウド | 25.7億円 | +1.87億円 | +27.8% | チャットボット好調/新規SaaS投入 |
IoT&デバイス | 55.0億円 | +2.27億円 | +1104.7% | aiwa製品+ODM生産が急回復 |
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特にIoT事業のセグメント利益10倍超が全体の業績牽引役に。
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M&Aで加えたウェルネス事業やHRTech事業は、収益貢献が一部に留まり、のれん償却費として重しにもなっている。
キャッシュフローと財務
営業は潤沢、投資は膨張
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営業CF:+13.7億円(税前損失も償却費が多くキャッシュ創出)
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投資CF:▲11.8億円(のれん・子会社株式取得・ソフト開発費)
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財務CF:+7,970万円(借入で調整)
➡ 自己資本比率は57.3%まで低下し、のれん・借入依存の資本構造が進行中。
➡ グループM&A戦略の“副作用”が財務構造にも及び始めている。
構造上のリスクと戦略的転換
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“受託→自社サービス”シフトを掲げるも、プロダクト化の遅れや採算悪化が顕在化
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開発遅延・部材高騰・海外製造リスクへの対応が重要
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グローバル展開(ベトナム、深圳、インド)を進める一方、多国間分散体制による管理負荷も増大
「三本柱」か、「三重苦」か
テクミラHDの決算は、外形的には「事業が拡大し、キャッシュも増えた」という内容だ。
だが中身を見れば──
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AI・クラウドは黒字だが競争激化で失速の兆し
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ライフデザインはヒット作頼みで安定せず
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IoT&デバイスは今期こそ復調したが為替・部材リスクの多い構造
加えて、のれん償却や投資回収のタイムラグが財務を圧迫し始めている。
この企業は、本当に「三事業を持つ強さ」なのか──
それとも「どれも主軸になりきれない三重苦」なのか。
次期は、“三本の柱が支える屋台”になるのか、“三方向に引っ張られる負荷”になるのか、その分水嶺である。