
堅実黒字の奥に潜む「分業リスク」
企業概要
EAJは、金融・不動産・建築・士業を横断する“エスクロー支援・決済クラウド業”である。
高信頼領域の業務を支えるクラウドとBPOサービスを武器に、「DX×専門性」で社会インフラ企業を目指す。
財務ハイライト
第18期(2024年3月〜2025年2月)
指標 | 実績 | 前期比・補足 |
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売上高 | 47.4億円 | +14.6%(過去最高) |
営業利益 | 4.82億円 | +5.8%(2期連続増益) |
経常利益 | 4.87億円 | +6.5% |
当期純利益 | 3.49億円 | +16.4% |
営業CF | +6.9億円 | 前年比+38% |
投資CF | ▲3.1億円 | システム投資主因 |
自己資本比率 | 74.7% | ▲3.2pt(やや悪化) |
➡ 「量も質もある増収増益」──だが、販管費増・自己資本比率低下・クラウド投資偏重という“次の課題”も滲む。
セグメント別構造分析
「稼ぐ士業・重い不動産・安定する金融」
セグメント | 売上高(億円) | 利益(億円) | 利益率 | コメント |
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金融ソリューション | 19.4 | 8.02 | 約41.4% | EPS等クラウド支援が安定牽引 |
不動産ソリューション | 8.9 | 0.04 | 約0.5% | H'OURS増加も新システム移行で利益飛ぶ |
建築ソリューション | 9.5 | 1.17 | 約12.3% | 調査・設計BPO好調。グループ会社が貢献 |
士業ソリューション | 9.6 | 1.65 | 約17.2% | サムポローニア躍進で利益貢献大 |
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士業(登記・電子申請)領域が「儲かるDXモデル」へと確立しつつある。
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一方で、不動産決済「H'OURS」は普及しても利益が出ないモデルに転落中。
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金融セグメント依存からの“士業との両輪構造”確立が現状の立ち位置。
財務構造とキャッシュフロー
現金は潤沢、だがバランスは劣化
- 現預金残高:27.9億円(前年比+0.8億円)
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営業CF:+6.9億円(税前利益+減価償却寄与)
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投資CF:▲3.1億円(うち無形固定資産:2.8億円)
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配当支出:2.6億円(DOE重視の株主還元方針)
➡ 「自力で稼ぎ、自己資金で成長投資する健全経営」
しかし、自己資本比率の低下(74.7%)・グループ支配構造の複雑化が将来的な重石となりうる。
グループ構造と支配体制
中央グループ支配の光と影
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筆頭株主:中央グループHD(42.6%)
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主力子会社:
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EAJ信託(不動産決済、信託)
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中央グループ(建築支援、設計)
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サムポローニア(登記クラウド、電子署名)
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ベトナム子会社(設計BPO)
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➡ 中央Gの出資・指導・業務連携により、EAJはグループの“金融BPO中核子会社”へと収斂
だが、本社独自の意思決定や多角戦略の余地が薄れ、持株会社依存リスクが高まる可能性も。
将来リスク
システム集中投資と「特定顧客依存構造」
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主要取引先:司法書士法人EAJ(売上比14.4%)/住信SBIネット銀行(12.5%)
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不動産系システム刷新(H'OURS等)に伴うコスト増が利益圧迫中
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人材増強(従業員268名、前年比+41人)→販管費の固定化リスク
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非常勤・派遣社員依存:134名(構成比33%)→品質と再現性の揺らぎ
“士業×DX”の未来を握るEAJ
EAJは今、「現場を知るクラウド企業」としての立ち位置を築きつつある。
だが──
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H'OURSの収益性不全
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人件費増大と分業効率の限界
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グループ支配と独立性の板挟み
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クラウド投資の回収フェーズ突入
といった構造的課題も顕在化している。
この会社は、「専門性×スケーラブルなサービスモデル」を確立できるのか。
それとも、「人と案件が増えないと成長しない、BPO依存モデル」に留まるのか。
EAJの次の一手は、“人の会社”から“仕組みの会社”への進化にかかっている。