
転換社債による“準コントロール”戦略の実相
2025年6月16日、香港拠点の投資会社・景祥針織有限公司(King Cho Knitwear Company Limited、以下King Cho)は、GFA株式会社(証券コード:8783)の株式を10,417,121株分保有し、発行済株式ベースで15.85%の保有割合に達したことを大量保有報告書で明らかにした。
注目すべきは、保有株式の大半(9,803,921株相当)が転換社債型新株予約権付社債(CB)による潜在株式であり、取得単価は1株あたりわずか51円という極端な割引水準である。
King Choとは何者か?
製造業本体と投資ファンドの複合的実態
King Choは2009年設立の法人であり、事業内容は「製造および小売」とされているが、2023年以降は複数の日本株への新株予約権投資を通じて市場での影響力を高めつつある。
代表は盧文澤氏。
その所在地は香港・将軍澳のショッピングモール内に位置し、従来的な金融業者とは一線を画す“製造業オーナー企業による戦略的金融投資”の様相を呈している。
GFAとは?
希薄化スキームの常連としての構造的脆弱性
GFA株式会社は、不動産、自然エネルギー、イベント、デジタルメディアなど多岐にわたる事業を展開するが、いずれも利益率が低く、経常赤字が継続している。
こうした中、同社は過去にも複数回にわたりCBや新株予約権を発行し、資金繰りを外部資本に依存してきた経緯がある。
その結果、株主構成が短期投資家に偏り、株価は慢性的な下落トレンドにあるとされている。
なぜKing ChoはCBを引き受けたのか?
3つの仮説
- 転換価格の極端な低さ=利益確定戦略
- 1株51円という水準は、株価下落リスクを事実上排除する“ノーリスク・リターン”構造に近く、短期的な売却益狙いの動機が強い。
- 経営影響力の獲得=準支配権ラインの確保
- 15%台という水準は、株主提案権や合併等の特別決議での一定影響力を持つ「準支配株主」として振る舞える閾値であり、経営提言・IR介入の布石ともなりうる。
- 事業シナジー/MBO準備の布石
- 製造・小売領域との業務提携や、将来的なMBOを見越した「株式先回り戦略」の可能性も否定できない。
市場が試される“調達とガバナンス”の均衡点
King ChoによるGFAへの出資は、単なる投資行動ではなく、発行体と投資家の関係性をめぐる“市場構造への問いかけ”である。
今後、転換社債の行使が進み、保有株式の市場放出が行われた場合、株価と株主構成は大きく変動することが予想される。
企業側がこうした資本構造変化をどのようにIR・ガバナンスに反映させるのか、それこそが投資家にとっての最重要注視点となるだろう。