モラント・ライト、東亞合成に5.05%出資

“静的英国ファンド”の核心ターゲットは日本のキャッシュリッチ企業

2025年7月18日、英国ロンドンを拠点とする独立系ファンド、モラント・ライト・マネジメント・リミテッド(以下、モラント・ライト)は、東亞合成株式会社(証券コード:4045)の株式5,705,000株を保有しており、発行済株式(113,000,000株)に対する5.05%に達したことを明らかにした。

この報告は、「特例対象株券等」として提出されており、形式的には議決権行使や経営参加を前提としない純投資の立場とされている。

しかし、モラント・ライトがこれまでターゲットとしてきた銘柄群、取得スタンス、英国系ファンド特有のアプローチを踏まえれば、これは東亞合成に対する制度内ガバナンス圧力の予兆とも言える。


モラント・ライトとは何者か

PBR是正特化型の英国アクティブバリューファンド

モラント・ライト・マネジメントは1999年設立の英国籍ファンドであり、主に以下の特徴を持つ。

  • 本拠地:ロンドン(James’s Place Street 43番地)
  • 投資スタイル:アジア(特に日本)企業への“ディープ・バリュー投資”を主軸とするアクティブ型

  • 運用戦略:PBR1倍割れ企業に対し、資本効率改善を求める“構造的アクティビズム”

  • 代表者:アラスデール・アラン・デワール・マックケレル(Alasdair Alan Dewar McKerrell)氏

  • 日本での提出代理人:TMI総合法律事務所・弁護士 荻田多恵氏

同ファンドは過去にも、日本の東証プライム上場銘柄において5~10%の出資比率を保持し、経営介入は行わずとも“数値ベースでの資本政策再設計”を促すファンドとして知られてきた。


東亞合成とは──

財務優良だが資本効率の低い、典型的ターゲット銘柄

東亞合成株式会社は、瞬間接着剤「アロンアルフア」などで知られる化学素材メーカーである。中核事業は工業薬品、機能性材料、アクリルポリマーなどで、以下のような特徴を持つ。

  • 自己資本比率:約70%超(2025年3月期)

  • 現預金:約500億円超、キャッシュリッチ体質

  • 有利子負債:軽微

  • ROE:約5~6%

  • PBR:0.6倍台で長期停滞

  • 配当性向:30~35%、自社株買いは限定的

これらのデータは、モラント・ライトのスクリーニング指標と完全に一致する。つまり、財務安全性が高いが資本効率が低く、還元余地が大きい企業である。


特例対象株券等の意味

沈黙の中で形成される“期待水準”

本報告書は「特例対象株券等」として提出されており、これは投資一任契約に基づく分別管理資産による運用であることを示す。

  • 議決権行使や提案権行使は予定されていない

  • 短期トレードではなく、中長期保有を前提

  • 他投資家に対する“先行評価シグナル”として機能

つまり、モラント・ライトは“物言う株主”ではないが、“市場全体が注目する価値シグナル”としての存在感を持っている。

また、報告書には担保契約や重要な契約も存在しないと記載されており、純粋にファンド内部の評価と資産配分判断に基づいた投資であることが分かる。


今後の焦点

“提案なき圧力”が資本政策を揺らすか

モラント・ライトによる今回の出資が表立ったアクションにつながるとは限らない。

しかし、以下のような“構造的反応”が東亞合成の資本政策に波及する可能性がある。

  • PBR是正を目的とした自己株取得の強化

  • 配当性向の引き上げ

  • 中期経営計画におけるROE目標の明確化

  • 株主還元方針に対する説明責任の増大

特に東亞合成のような中堅化学企業は、外資系ファンドからの“ソフトな包囲”に最も影響を受けやすい構造を持つため、IR部門の対応や資本コスト認識の再定義が重要な課題となる。

“構造圧”は発言しない、だが沈黙は問いを突きつける

モラント・ライト・マネジメントによる東亞合成株5.05%取得は、「提案行為なし」「ガバナンス介入なし」の報告書であっても、その構造的意味は極めて重い。

それは、「この企業には改善余地がある」という専門家の静かな評価であり、PBR是正の次なるターゲットとして市場に記憶される事実でもある。

企業側にとって、静かな株主は最も難しい相手である──なぜなら、口を開かずとも、数字と保有比率がすでにメッセージだからだ。

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