【決算分析】プロパティ・テクノロジーズ

― 売上+27%、営業利益4倍、だが自己資本比率は依然19% ―

企業概要

中古住宅にDXを重ねる「不動産×テック」の融合体

プロパティ・テクノロジーズ(以下、PT社)は、「リアル(住宅)×テクノロジー」を掲げ、中古住宅流通における仕入・リノベーション・販売を一貫して手がけるiBuyer型プラットフォーム事業者である。

自社サービス「KAITRY(カイトリー)」を通じて、仲介会社・エンドユーザー・金融機関を巻き込んだ不動産流通ネットワークを構築している。

同社はテック企業的側面(AI査定・SaaS提供)ディベロッパー的側面(物件再販・買取再販)を併せ持ち、従来の不動産会社とは一線を画す構造を有している。

2023年に東証グロース市場に上場後も、積極的にリノベーション再販や新築戸建を手がけ、事業領域を拡張し続けている。

財務ハイライト

営業利益4倍、最終利益26倍の大躍進

指標 2024年中間期 2025年中間期 増減率
売上高 19,004百万円 24,203百万円 +27.4%
営業利益 281百万円 1,078百万円 +283.9%
経常利益 142百万円 897百万円 +530.2%
純利益(親会社) 21百万円 545百万円 +2555.6%
営業CF +950百万円 +755百万円 ▲20.4%

 KAITRYの進化と“3本の矢”戦略

PT社の収益源は単一セグメントながら、実質的には3つの収益モデルで構成されている。

●① 中古住宅再生(買取再販)

  • 売上:18,235百万円(前年同期比+17%)

  • 主力である「スタンダードマンション」「プレミアムマンション」の再販が牽引

  • 一棟案件売上も2,875百万円を記録し、今期の利益成長を押し上げた

●② 戸建住宅販売(サンコーホーム他)

  • 売上:2,603百万円

  • 戸建引渡件数:89件(前年同数)ながら、営業赤字が7,075万円に拡大

  • コスト上昇と販売価格調整で収益性が悪化傾向

●③ SaaSモデル(金融機関向け)

  • KAITRY financeの導入行数:8行社

  • SaaS型収益(売上:3,089百万円)は前年の約20倍へ急増

▶ SaaS収益の拡大は好材料だが、その大半は情報提供対価・売却情報連携のアドバイザリーモデルであり、まだ“純粋な月額課金”とは言えない

スケーラビリティの検証は次期以降の焦点となる。

財務構造とリスク

利益急拡大でも変わらぬ“財務の脆さ”

指標 2024年11月期末 2025年5月末(今期)
総資産 40,792百万円 40,876百万円(微増)
純資産 7,477百万円 7,838百万円(増加)
自己資本比率 18.3% 19.2%(わずか+0.9pt)
現預金残高 4,315百万円 4,049百万円(減少)

利益水準は劇的に改善したが、自己資本比率は依然として20%を下回る水準にとどまっており、資本の脆弱さは解消されていない

とりわけ販売用不動産(在庫)が261億円相当に膨らむ中で、約230億円の短期借入を抱えており、過剰な“借入依存型レバレッジ経営”が見え隠れする。

これは、収益成長と財務健全性の乖離を象徴しており、「見た目の利益」だけで評価することは危険である。

 キャッシュフローと資本政策

増資頼みから自立的成長へ移行なるか

営業CFは黒字を維持したが、以下の構図を見逃すべきではない。

  • 売上の増加 → 販売用不動産の在庫増(+24.3億円)を伴う

  • 営業投資有価証券(=短期金融商品)を全額売却して営業CFを確保

  • 財務CFは951百万円のマイナス:長期借入金返済や社債償還での資金流出

つまり今期は「在庫を積み上げつつ、保有資産を崩して営業黒字を演出した構図」であり、キャッシュ創出力は本業ではなく資産運用と調整的な処理による部分が大きい

株式戦略と分割

2025年7月取締役会で決議された株式戦略は以下の通り

  • 自己株式 58,000株(1.40%)の消却

  • 1株→3株への株式分割(2025年8月効力発生)

  • 定款変更により発行可能株数を1,922万株へ引き上げ

これは将来的な増資やストックオプションの布石であり、個人投資家の取り込みを見越した流動性戦略の一環と考えられる。ただし、過去に自己株買い→増資→希薄化というプロセスをたどってきた背景から、資本戦略に対する慎重な視線が今後も求められる

この企業は、“成長するリスク”を孕んでいる

プロパティ・テクノロジーズの今期決算は、「急成長」の一語に尽きる。売上27%増、営業利益4倍、SaaSもスタートを切った。

しかし、それらの成果の裏には、「増える在庫」「減る現金」「変わらぬ自己資本」「借入依存」という、“成長すればするほど危うくなる構造”が存在する。

この企業の本質は、テクノロジー企業ではなく、資本効率と金融レバレッジを駆使する「不動産系ユニコーン」である。

華やかな表層の裏に、どれだけのリスクを抱え、どこまで資本政策を描けるか。

問うべきは、「成長の先に、利益と安定が伴っているか?」
そして、「このスケーリングに、信用がついてきているか?」である。

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