
“沈黙型米系アクティビスト”が選んだSaaSの成長核
2025年7月24日、米国サンフランシスコ拠点のアクティブファンド、ValueAct Capital Management, L.P.(以下、バリューアクト)および関連ファンドであるValueAct Japan Master Fund, L.P.は、マネーフォワード株式会社の株式3,120,300株(発行済株式総数55,520,779株の5.62%)を取得し、関東財務局へ大量保有報告書を提出した。
この動きは単なる保有ではない。報告書に記されたのは「純投資」+「状況に応じて重要提案行為等を行う」──つまり、“静かながら明示的なアクティビスト姿勢”である。
ValueActとは
物言わぬガバナンスプレーヤーの代表格
ValueActは2000年に米カリフォルニア州で設立された老舗のアクティブファンドで、以下の特徴を持つ:
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本拠地:米・サンフランシスコ(報告書上はデラウェア州)
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運用資産:200億ドル規模(全世界)
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投資哲学:「企業と対話し、内側から価値を引き出す」
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過去事例:Microsoft、Adobe、Salesforceなどへの戦略的関与
特に日本では、オリンパスやKADOKAWAなどの中核銘柄に対する“長期かつ構造的なエンゲージメント”で知られており、短期回転型とは異なる「制度内アクティビズム」の代表格とされる。
共同保有ファンドの構造
ジャパン・マスター・ファンドを通じた投資運用
今回の報告は2法人の連名による提出:
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ValueAct Capital Management, L.P.(運用会社)
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ValueAct Japan Master Fund, L.P.(投資主体、英領ヴァージン諸島籍)
この構造から分かるのは、実際の株式保有者はファンド(L.P.)側であり、運用権限を管理会社が保持しているというアセットマネジメント業界標準のスキーム。
また、報告書によると取得資金13,411,159千円(約134億円)はすべて「顧客資金(ファンド資産)」で構成されており、自己資金やレバレッジを用いないロングオンリー運用である。
取得の経緯
60日間で分散的に構築された“無音の買い集め”
保有は短期間で急増しており、2025年7月3日~7月16日の間に以下のような市場内取引が確認されている。
取得日 | 株数 | 割合 | 備考 |
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7/3〜7/16 | 合計 約1,020,000株 | 約1.8%分 | 全件市場内取得 |
すでにそれ以前に2,100,000株超を保有していたと推測され、これは市場に痕跡を残さない高度に分散された累積構築スタイルの証左である。
マネーフォワードとは
SaaSと金融連携の中核を担うFintechエンジン
マネーフォワードは、個人・法人向け会計クラウドやバックオフィスソリューションを展開する国内Fintechの雄であり
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時価総額:約6,500億円(2025年7月現在)
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PBR:約12倍、PERは赤字ながら将来成長見通しが織り込み済み
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顧客基盤:中小企業・士業事務所・金融機関と提携
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競合との差別化:UI/UX、決算分析AI、銀行API連携の完成度
バリューアクトは「収益が出ていない段階でも“構造と持続性”で投資する」スタイルを持ち、この企業の中長期的なガバナンス強化・資本効率の改善に介入してくる可能性がある。
米系制度派アクティビストが、次に“手をかけた成長株”
バリューアクトによるマネーフォワードへの5.62%出資は、表面的には「沈黙型長期投資」に見える。だが、その実態は、
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明示された「助言・提案行為の余地」
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顧客資産を通じた制度型介入
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時間をかけて“持続可能な企業価値”を設計する長期圧力
といった、外資ファンドによる“見えない株主統治”の始動を意味する。
この先、マネーフォワードがどう応えるかが、市場におけるSaaS銘柄の“資本構造の成熟度”を占う試金石となるだろう。