
日本製鋼所とは
国防・原発・宇宙産業を支える“重厚長大”企業
日本製鋼所(The Japan Steel Works, Ltd./証券コード:5631)は、創業100年を超える東証プライム上場の重工メーカーである。
主要事業は以下の3本柱。
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原子力発電設備向け大型鍛造品(世界シェア6割超)
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防衛装備品製造(陸上自衛隊火砲・戦車砲身など)
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宇宙・先端素材技術(CFRP/人工衛星用材料・レーザー加工等)
近年は国策色が強まる中で、政府系ファンドや官民研究プロジェクトのパートナーとしても注目されている。
その日本製鋼所に対して、世界最大級の資産運用会社「FMR LLC(フィデリティ・グループ)」とその日本法人が5.16%を取得したという事実が、8月22日に関東財務局へ提出された大量保有報告書によって明らかとなった。
報告書の要点
“信託運用”と“貸株スキーム”が交錯する構造
報告書によれば、以下の2者による共同保有という形で報告がなされている。
提出者名 | 保有株式数 | 保有割合 | 備考 |
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FMR LLC(米国本社) | 3,840,860.5株 | 5.16% | 顧客資産の信託・運用のため保有 |
National Financial Services LLC | 78.5株 | 0.00% | トレーディング口座構造として連携 |
合計:3,840,939株(5.16%)。株式の保有目的は「顧客資産の運用による信託」と明記されているが、特徴的なのは「消費貸借契約による貸株」**が多数発生している点である。
具体的には、以下のような内訳が報告書に明示されている。
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STATE STREET BANK AND TRUST COMPANYに対し42,824株を貸出
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機関投資家宛:63.5株の貸株
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一般投資家宛:12.5株の貸株
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合計貸株:約11万株超(推定)
名義上はフィデリティが保有しているが、実質的な株主はその裏に広がる世界中の顧客である。
FMR(フィデリティ)の狙い
“支配”より“構造への接触”を選ぶグローバル戦略
今回の保有は、いわゆるアクティビスト的な攻撃ではなく、「顧客の長期投資口座」を通じた日本製鋼所の“政策的セクター”への関与を意図したポジションと見ることができる。
特徴 | 内容 |
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投資目的 | 顧客資産の信託運用(ファンド型) |
投資手法 | 貸株/預託/預り構造に基づく証券管理型 |
投資スタンス | 議決権行使は個別ファンド単位で判断 |
企業側への圧力 | 現時点では「ゼロ」または「非公開」 |
特筆すべきは、大量保有報告の形式が「特例対象株券等(27条の26)」ではなく通常の大量保有報告書である点。
これは、ある程度の「議決権影響」や「企業情報への接触」を前提とした“制度的な長期関与”であることを示唆している。
なぜ今、日本製鋼所なのか?
テーマ株としての“国家資本主義ゾーン”
日本製鋼所は、以下の要素を複合的に満たす数少ない上場企業である。
観点 | 内容 |
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PBR | 0.8倍前後。構造的に割安 |
事業特性 | 原子力/防衛/ロケットなど“国策依存”型 |
IR体制 | 保守的でアクティビスト対策も限定的 |
市場期待 | 政策テーマ株として物色対象になりやすい |
フィデリティのようなグローバル資産運用会社にとって、こうした“日本発の政策株”は、ESGテーマと並列するグローバルポートフォリオの「国家セクター投資枠」として機能する可能性がある。
フィデリティは“触れずに組み込む”
制度内に忍び込むグローバル構造資本
本件は、派手なTOBやアクティビスト提案ではない。
だが、制度的に無害な姿勢で“防衛・エネルギー・宇宙”という戦略領域への資本参加を実現する構造的アプローチである。
フィデリティは「支配を望まない」。だが、国家戦略に資本で寄り添う。
この存在のあり方が、いま日本の上場市場における「透明な支配」の進行形であり、企業と政策の中間にある株主というポジションの再定義を迫っている。