株式は誰のためのものか?

小野谷機工の27.31%が“財団法人”に移された意味を読む

無名市場で動いた、異質な保有報告

2025年9月4日、北陸財務局に提出された一通の大量保有報告書──。

その報告は、「一般財団法人三村学術福祉財団」がTOKYO PRO Market上場企業である小野谷機工(209A)の株式27.31%(100万株)を保有しているというものだった。

この数値だけ見れば、一般的な“主要株主”誕生の報告に過ぎない。

しかし、問題はその中身にある。

報告書の中身

「代表者が代表理事、かつ株式を譲渡した」異例の構図

本件の最大のポイントは、代表理事・三村健二氏が、発行会社である小野谷機工の現職取締役であり、主要株主でもあったことだ。

彼が所有する株式の一部を、2025年8月29日付で、自ら設立した財団法人(三村学術福祉財団)へ“無償で”譲渡したという。

この構図には、明確な特徴がある。

要素 内容
譲渡日 2025年8月29日
株数 1,000,000株(発行済3,661,600株の27.31%)
譲渡方法 無償譲渡
譲渡先 一般財団法人三村学術福祉財団(代表理事:三村健二)
資金 自己資金、借入・第三者資金なし

つまり、「企業の創業株主(もしくは実質オーナー)が、自らの影響力を“財団”という形式に包みなおした」と見るべき構造である。

三村学術福祉財団とは

設立1ヶ月、資産は企業株式のみ

本財団は2025年6月20日に設立されたばかりの組織で、所在地は福井県越前市。

▍事業目的(報告書記載より)

  • 学術研究への助成(自然科学・社会科学・人文科学・芸術・社会福祉)

  • 教育機関(小・中・高・高専・専修学校等)への支援

  • 地域振興と文化支援

一見すると、よくある公益志向の財団だが、その基本財産の中身は“事業会社の株式100万株”ただ一点に集約されている。

また、配当金を財源として助成活動を行うと明記されており、保有株式からのキャッシュフローが“活動基盤”となる完全自立型モデルだ。

なぜ今、無償で株式を財団に渡したのか?

本件の行動は、単なる「社会貢献」では説明がつかない。背景には、以下のような戦略的構造が読み取れる。

▍① 相続税回避・資産承継スキームとしての“財団化”

創業オーナーが高齢化した場合、株式のまま次世代に承継すると相続税の圧力が大きい。一方、財団化すれば株式は非課税で移転可能となる(※一定条件あり)。

加えて、財団の定款や理事構成をコントロールすれば、実質的な影響力を維持したまま、資産を形式的に“公益枠”に閉じ込めることができる。

▍② 企業支配と社会貢献の“融合”を名分に

財団が大株主となることで、敵対的買収や投資ファンドからの圧力を抑止できる一方で、社会貢献的な見せ方ができる。いわば、“支配の正当化”が成立する構造だ。

▍③ TOKYO PRO Marketという“規制緩い市場”の利用

本件は東証の中でも制度的開示が最も緩いTOKYO PRO Marketで行われている。大量保有報告書も“形式的提出”にとどまり、報道等もほぼ皆無。

こうした“静かな制度的余白”が、このような構造を可能にしている。

これは「合法的支配の凍結装置」か

今回の構図は、「大株主の持ち株を財団に移し、企業とともに“未来に凍結”する」ようなものだ。

表面上は公益だが、裏側では

  • 議決権の固定化

  • 外部介入排除

  • 資本構造の長期維持

  • 個人資産の承継防衛

といった複数の戦略的レイヤーが重なっている

財団の名を借りて、株式は「静かに守られる」──これが“日本型オーナー企業の終着点”なのかもしれない。

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