
大型から新興まで押さえる機関マネーの軌跡
主要銘柄の保有状況
世界最大の資産運用会社ブラックロックは、日本のAI関連企業に対しても幅広く投資している。
直近の開示情報から見える主な保有銘柄は以下のとおりである。
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Appier(4180):総保有株数は約581万株で比率は5.67%。日本法人・アイルランド法人・米国法人を通じて分散的に保有。
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指数組入れを契機に機関資金が本格流入した。
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NEC(6701):保有比率は7.44%から8.47%へ増加。公共・社会インフラ領域でのAI活用を強みに持つ。
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富士通(6702):5.31%から6.40%に増加。量子技術やAI基盤を活かし、DXソリューションに注力。
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ソフトバンクグループ(9984):5.2%を保有。AIスタートアップ投資の集約先であり、ビジョンファンドを通じて世界的なAI関連事業に関与している。
いずれも5%を超えることで「主要株主」と位置づけられ、グローバル資本としての影響力を明確に示している。
投資手法の特徴
ブラックロックの大量保有報告を見ると、単なる「保有」にとどまらず、複数の金融機関との間で貸株・借株取引を実施していることが分かる。
保有株を市場に貸し出すことで流動性供給と貸株収益を確保し、一方でETFの設定解約などに対応するための借株も組み合わせている。
結果として「名義は安定株主」でありながら、「実態は市場流動性の中核」として機能している。
企業ごとの将来性評価
Appier(4180)
台湾発のAIスタートアップで、広告やCRMを対象にしたAIプロダクトを展開。
海外売上が急伸しており、5%超の新規到達は「機関資金の入口」としての意味を持つ。
短期では貸株回転によるボラティリティが懸念されるが、中期ではサブスク収益の拡大が注目点となる。
NEC(6701)
顔認証や公共領域で強みを発揮し、安定した契約基盤を持つ。
保有比率の増加は中長期的な評価強化を示しており、国内AI需要拡大を背景に株主としての信任が厚い。
成長率は大きくないが、安定性と持続収益力で魅力がある。
富士通(6702)
スーパーコンピュータや量子アニーリングに裏打ちされたAI最適化技術を持つ。
6%超まで増加した背景には、安定した顧客基盤とAI案件の拡大がある。
AIによる粗利改善が株主価値の焦点となる。
ソフトバンクグループ(9984)
投資ポートフォリオ全体でAIに賭ける存在。
押し目局面での買い増しも確認されており、グローバルAI市場の動向に最もレバレッジが効く銘柄といえる。
ただし投資先の時価評価に左右されやすく、金利やマクロ環境に脆弱である。
その他注目銘柄
PKSHA Technology、HEROZ、エクサウィザーズなどの新興AIベンチャーにも市場の関心は高い。
現時点ではブラックロックの保有比率が5%未満のため大量保有報告は出ていないが、指数採用や流動性の拡大に伴い、今後機関投資家の新規参入が表面化する可能性は大きい。
論点
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ブラックロックの日本AI株投資は純投資であり、経営介入の意図はない。それでも5〜8%の保有は株主総会やIRにおける存在感を持つ。
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保有株の一部は貸株として市場に供給され、名義と実効支配の乖離が生じている。
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機関フローの入口にある銘柄(Appierなど)は短期的に変動が大きい一方、中長期ではAI事業の成長がリターンを裏付ける。
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大型株(NEC・富士通)は堅実な基盤と安定成長を、ソフトバンクGは高リスク・高リターンのAI投資レバレッジを提供する。
結論として、ブラックロックの投資動向は「日本のAI関連株をグローバル市場がどう評価しているか」を映す鏡である。
安定的な資本流入と流動性供給を背景に、Appierのような新興株からNECのような大企業まで、AI関連株の成長余地を探る上で重要な示唆を与えている。