
アクティビストの新たな照準は「中部発テック企業」
報告書が示す事実
2025年10月9日、米国サンフランシスコを拠点とする著名アクティビストファンド、ValueAct Capital Management, L.P.(以下、ValueAct) が、サン電子株式会社(証券コード6736) の株式を7.87%保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は10月2日。報告書によると、ValueActは英領ヴァージン諸島籍の関連ファンド ValueAct Japan Master Fund, L.P. と共同保有の形を取っており、総計1,890,000株を保有している。
そのうち686,900株(約2.86%)は市場外で取得しており、1株あたり8,240円という高単価取引が確認された。
ValueActとは何者か
ValueActは2000年代初頭から活動する米国の大手アクティビスト(物言う株主)であり、Google(Alphabet)、Microsoft、Adobe、Citigroupなどに戦略的出資した実績を持つ。
彼らの投資哲学は、いわゆる「敵対的アクティビズム」ではなく、
“Constructive Engagement(建設的対話)”──経営陣と協調しつつ、企業価値を高める。
というものだ。
設立者のJeff Ubben氏(現在はInclusive Capital Partnersを運営)は、ESG投資の潮流を早くから導入した人物としても知られる。
ValueActは短期的なリターン追求型ではなく、3〜5年単位での長期保有を前提とした経営関与型ファンドである。
日本市場における存在感の拡大
ValueActは近年、日本市場に焦点を移しつつある。
すでにソニーグループ、キーエンス、HOYAなどに関与した経緯があるが、今回のサン電子取得は、その中でも異質な動きだ。
というのも、サン電子は時価総額500億円前後の中堅IT・電子機器メーカーであり、東証プライムの大企業とは異なる“地方発テクノロジー企業”であるからだ。
同社は本社を愛知県名古屋市に構え、ゲーム開発(サンソフト)、IoT機器、セキュリティ関連など、多岐にわたる事業を展開している。
つまりValueActは、「グローバルでは大手、国内では地方中堅」という新しいターゲット層に照準を合わせ始めたのである。
取引の実態
静かな買い増しと共同運用体制
報告書によると、ValueAct本体は運用契約上、実際の投資運用権限をValueAct Japan Master Fundから委託されており、日本国内ではホワイト&ケース法律事務所(丸の内トラストタワー)が事務連絡窓口を務めている。
取得資金の総額は約113億6,000万円で、すべて顧客資金による投資。借入やデリバティブ取引の記載はない。
取引履歴を見ると、2025年9月末〜10月初旬にかけて、
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9月29日~10月1日:小口取引(市場内)で株価動向を確認
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10月2日:一気に市場外で68万株超を取得
という2段構えの戦術を採用している。
この動きは典型的な「サイレント・ビルドアップ」型戦略──
株価を動かさずにポジションを積み上げ、一定比率に到達した段階で正式に報告書を提出する手法だ。
サン電子の位置とValueActの狙い
サン電子は、任天堂やKONAMIなどと同時期にゲーム事業を興した老舗メーカーだが、現在はIoT・セキュリティ関連機器に軸足を移している。
特に米国子会社 SUN CORPORATION OF AMERICA を通じて展開する「デジタル捜査支援ツール」は、世界的な警察機関・法執行機関に採用されており、利益率の高い事業として急成長している。
ValueActはこのグローバル・セキュリティ事業に注目していると見られる。
つまり、サン電子を単なるゲーム企業ではなく、「サイバーセキュリティ×テクノロジー」企業として再評価し、グローバル展開を後押しする可能性がある。
視点と論点
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アクティビストの“地方進出”
これまで外資アクティビストの標的はプライム上場の大企業が中心だった。今回のように地方発・中堅メーカーへの関与は珍しい。 -
グローバル資本と国内中堅の融合
サン電子のような企業は、日本企業が抱える「技術はあるが資本効率が低い」典型。ValueActが入ることで、資本政策やガバナンス改善が進む可能性がある。 -
経営陣との“協調的対話”に注目
ValueActは敵対的買収ではなく、経営陣との対話を重視する。過去の事例では、取締役会への提案や持続的成長策の共有が中心であり、日本企業にとって“痛みを伴わないアクティビズム”を体現する存在といえる。
アクティビズムの次なる波
ValueActによるサン電子株の7.87%取得は、単なる保有報告ではない。
それは、アクティビズムの重心が「東京」から「地方産業」へと移り始めた象徴的な事例である。
愛知・名古屋に根を持つサン電子が、米サンフランシスコの資本と結びつく――
そこには、日本の中堅企業が世界市場に再挑戦するための「新しい資本主義のかたち」が見える。
──この動きを、企業防衛か、それとも共創への第一歩か。
判断するのは、サン電子自身と、地方に眠る多くの中堅テック企業だ。

