
米長期資本が注目する「防衛×インフラ国家企業」
報告書が示す事実
2025年10月22日、米ロサンゼルス拠点の大手投資顧問会社キャピタル・リサーチ・アンド・マネージメント・カンパニー(Capital Research and Management Company)が、株式会社IHI(証券コード7013、東証プライム上場)株式を5.17%保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は10月15日で、保有株数は56,012,729株。
共同保有者として、同グループ傘下のキャピタル・インターナショナル・インク(Capital International, Inc.)が記載されており、
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キャピタル・リサーチ:54,514,393株(5.03%)
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キャピタル・インターナショナル:1,498,336株(0.14%)
の合計で5.17%を占める構造となっている。
キャピタル・リサーチの投資哲学
キャピタル・リサーチは、米国の資産運用大手「キャピタル・グループ(The Capital Group Companies, Inc.)」の中核企業である。
1931年にロサンゼルスで創業し、現在では世界で約300兆円規模の運用資産を誇る。
同社の特徴は、
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長期保有を前提とした「ロング・オンリー投資」
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経営陣との対話を重視する「建設的アクティビズム(Constructive Stewardship)」
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グローバルな分散ポートフォリオ運用
であり、短期的な利益を追うヘッジファンド型とは明確に一線を画す。
その投資スタイルは、「株主として企業と共に成長する」という理念に基づいている。
IHIという企業
国家インフラを支える総合重工
IHIは、1853年創業の日本を代表する総合重工メーカー。
エネルギー、造船、航空宇宙、防衛、社会インフラなど多岐にわたる事業を展開している。
近年は、
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防衛装備(イージスシステム・ミサイルエンジン)
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航空エンジンの民間・軍需双方への供給
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カーボンニュートラル・水素供給インフラ事業
など、国家安全保障と脱炭素化という「二重の国策軸」を支える存在へと変貌を遂げている。
2025年現在、同社は防衛装備品の生産拡大や航空エンジン事業の増強を進めており、
政府の「防衛力強化方針(2023〜2027)」における中核製造企業の一つとして位置づけられている。
キャピタルの狙い
国策とグローバル投資テーマの交差点
キャピタル・リサーチがIHI株を保有する意義は、単なる財務的バリュー投資ではない。
むしろ、
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「安全保障×環境インフラ」という時代テーマの融合
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中長期的な国策産業の収益安定性
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日本市場の低PBR(株価純資産倍率)是正による潜在リターン
という三つの文脈に根ざしている。
IHIは、世界的なESG投資の流れの中でしばしば「軍需企業」として敬遠されがちだったが、エネルギー・防災・環境技術を組み合わせた“公共インフラ企業”として再評価され始めている。
キャピタル・リサーチはこの構造変化を的確に捉え、「国策産業=持続的ESG収益企業」という新たな定義を市場に突きつけている。
共同保有構造と法務体制
報告書によると、IHI株の保有・開示業務はクリフォードチャンス法律事務所(外国法共同事業)が代行。
同社は丸の内パレスビル内に事務所を構え、国際法務・資本市場取引に強みを持つ。
この点からも、キャピタル・グループの投資が単なる市場ポジションではなく、国際的ガバナンス体制の下で設計された長期保有であることがうかがえる。
視点と論点
米長期資本の“安全保障産業シフト”
アメリカの長期運用機関が、防衛・航空・インフラといった「国家装置産業」に再び関心を寄せ始めている。
“ESG×防衛”という新たな投資テーマ
戦争回避と平和維持のための抑止力を「持続可能性の一部」とみなす見方が欧米で拡大。
IHIのような企業は、その“倫理的インフラ投資”の対象になりつつある。
日本市場の国際資本再評価
日本政府の防衛支出拡大は、外資から見れば「国策成長セクター」の誕生。
キャピタル・リサーチのような長期資本が静かにポジションを築くのはその表れだ。
「国策と民間資本の接合点」に立つIHI
キャピタル・リサーチによるIHI株5.17%保有は、数字以上の意味を持つ。
それは、世界最大級の長期資本が日本の“防衛と環境の両輪企業”を次世代の基幹産業と認識した証拠である。
短期資金が離れていく中で、こうした“静かな国際資本”が日本の戦略企業を支え始めた。
今後、IHIが担うのは単なる重工業の再生ではない。
それは、国家と民間資本が共に歩む新しい日本型産業モデルの試金石となるだろう。
──静かな米資本は、すでに日本の未来インフラに根を下ろしている。
