Cantor Fitzgerald、カルナバイオ潜在株を15.02%に拡大

外資系金融が組み上げた「転換・売却スキーム」の全貌

欧州拠点の Cantor Fitzgerald Europe が、カルナバイオサイエンス(4572)の保有割合を 9.68% → 15.02% へ大きく引き上げた。

今回明らかになったのは、第1回・第2回・第3回 無担保転換社債型新株予約権付社債(いわゆるCB) を通じた“潜在株ベースの巨大ポジション形成”である。

取得したのは発行者の普通株式ではなく、3,383,772株分の転換権(CBの権利)だ。

株式換算すると、発行済株式1,915万株のうち 約15% に相当する。

カルナバイオは創薬ベンチャーの典型的課題である“慢性的な資金需要”を抱えており、今回の報告書はその脆弱性につけ込む外資の「金融スキーム」がフルに回転していることを示している。

Cantor Fitzgerald はなぜ日本の創薬企業を狙うのか

Cantor Fitzgerald は米ウォール街の老舗金融グループであり、ロンドンの Cantor Fitzgerald Europe は ワラント・CB・第三者割当の引受に特化した部門 として知られる。

証券会社だが、本質的には

  • 投資銀行

  • ヘッジファンド

  • SPAC組成

  • 資金調達仲介
    の4つの顔を持つ“総合金融マシン”。

特に 研究開発型バイオベンチャー=資金需要が尽きない企業 は、彼らにとって「金融商品化しやすいターゲット」だ。

国内市場では、資金調達→希薄化→株価下落→再調達という負の循環が続く弱者企業ほど、外資金融の“転換権ビジネス”に巻き込まれやすい。

カルナバイオは、その典型例である。

取得したのは株式ではなく“CB3本の転換権”

今回の大量保有報告には、以下の3つのCBが登場する。

▼ ① 第1回無担保転換社債型新株予約権付社債(2025/7/28)

▼ ② 第2回無担保転換社債型新株予約権付社債(2025/9/29)

  • 1,256,913株分

  • 単価 179.01円(市場外取得)

▼ ③ 第3回無担保転換社債型新株予約権付社債(2025/11/27)

  • 1,335,470株分

  • 単価 168.48円(市場外取得)

合計:
3,383,772株分の転換権(潜在株)=15.02%

注意すべきは、今回 Cantor が新たに取得したのは “株式ではなく、権利” であること。

つまり、

「株価が上がれば株を転換して売る。
上がらなければ転換しない。
リスクは発行者(カルナ)、利益はCantorが取る」

という、外資系金融に典型的な“片方向利益モデル” が成立している。

CB引受契約

“転換・売却”を前提とした実質販売業務

提出書類には、3本のCBについて次の契約が明記されている。

● 契約の核心

  • Cantor は 3本すべてのCBを引き受ける

  • CBは 必ず転換し、株式化する方針

  • 転換後の株式は、
    海外機関投資家へ順次売却する意向

  • 譲渡には発行者(カルナ)の書面承諾が必要

  • 金融商品取引所での売却も可能

  • ただし発行者側による転換停止は禁じられている
    (=Cantorは“いつでも株に変えて売れる”という強い権利を持つ)

これは単なる投資ではなく、発行体の株式を「海外投資家へ販売する仕組み」そのもの である。

簡単に言えば、

カルナ → Cantor → 海外投資家(売却)

という 外資ワラント供給チェーン が完成したことになる。

15.02%という比率の意味

“経営支配ではなく需給支配”

従来、企業に対する影響力は10%や20%といった数字で語られるが、今回の15%は 支配目的ではなく、市場支配目的 の比率である。

  • 転換株はいつでも市場に放出可能

  • CBの転換タイミングは Cantor 側の裁量

  • 転換タイミングが株価に大きく影響

  • 一気に転換すれば株価急落

  • 分割転換すれば長期間需給を握る

つまり Cantor は、“カルナバイオの株価形成そのものを握る力” を手にしたと言える。

企業支配ではない。

だが株主にとっては、“支配以上に厄介な存在” が誕生したことになる。

論評

カルナバイオは“外資ワラント工場”の入口に立った

カルナバイオサイエンスは、創薬技術は評価されながらも、赤字体質と財務体力の弱さが長年の市場課題となっていた。

この弱点が、

  • 希薄化

  • 再調達

  • CB発行

  • 外資依存

という負の連鎖を生んできた。

今回の Cantor の保有拡大は、その構造が 最終段階に入ったことを示すシグナル だ。

  • 安い権利を外資に売る

  • 外資は転換して市場で売る

  • 株価は下がる

  • 企業は再調達で希薄化を続ける

これは、“研究開発よりも金融スキームが企業価値を決める構造”であり、日本の創薬市場の慢性的問題でもある。

カルナバイオは、資金調達モデルの抜本的見直し をしない限り、外資金融の“資金回収機構”として利用され続ける。

創薬企業としての未来を守るためには、ガバナンス・IR・資本政策を全て再構築する覚悟が必要だ。

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