
新株予約権96,466,100個を一括取得。
米国ウォール街でも中核級の存在感を持つ Cantor Fitzgerald(キャンターフィッツジェラルド) の欧州法人が、アンジェス(4563)の 第46回新株予約権を96,466,100個 取得し、潜在株ベースで19.99% を押さえた。
取得は11月25日、市場外での単発取引。単価は 0.33円。
これはアンジェスの長期低迷と資金調達依存構造において、「欧州投資銀行系との関係を軸とした新たな資金スキーム」 が作動したことを意味する。
今回の大量保有報告書は、アンジェスという慢性的赤字企業が抱える構造的課題と、海外投資銀行側の“権利行使ビジネス”の存在を鋭く照らし出している。
Cantor Fitzgerald Europeとは何者か
Cantor Fitzgerald は、米国の巨大金融グループであり、
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債券
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投資銀行
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ヘッジファンド
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MBS/ABS
などに強い“ウォール街の老舗”。
今回登場したのはその欧州法人 “Cantor Fitzgerald Europe”。
所在地はロンドン・カナリー・ワーフ。1990年設立の本格派証券会社だ。
重要なのは、市場での存在は「証券ブローカー」だが、案件次第でPE・ヘッジファンド的機能も発揮するという二面性。
特に
“新株予約権の受皿”
“第三者割当の海外配布”
“資金調達案件での一括引受”
といった、欧州資本市場のインフラを活用したスキームを得意とする。
今回のアンジェス案件は、その典型である。
実質20%の“未来株式”を取得
今回の大量保有内容の中核は、「アンジェスが発行した第46回新株予約権」 の取得である。
数量は 96,466,100個。
これは発行済株式数386,077,550株に対し 19.99% に相当する。
しかも取得単価は 0.33円。
つまり Cantor は、
“アンジェスの株式1億株弱を、1株1円にも満たないコストで保持する権利”
を手にしたことになる。
新株予約権は通常、「将来の事業成長に備えた資金調達」だが、アンジェスの場合に限っては構造が異なる。
アンジェスは慢性的な赤字と希薄化を繰り返してきた企業であり、新株予約権の発行=既存株主の希薄化 を意味する。
そこに欧州投資機関が入り込む構図は、“日本の再生バイオ企業の資金調達依存”という構造的脆弱性を象徴している。
海外機関投資家への売却意向”
今回の大量保有報告書の最重要ポイントがここだ。
▼ 新株予約権割当契約の内容
提出者(Cantor)はアンジェスと契約を締結し、その内容には以下が含まれる。
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Cantor は 海外機関投資家へ新株予約権を売却する意向
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新株予約権の譲渡には発行者(アンジェス)の 事前承認が必要
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アンジェスは、Cantor による新株予約権の行使を いつでも停止可能
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ただし、Cantor が既に売却先との契約を結んでいる分については行使停止不可
この契約構造は、“アンジェス→Cantor→海外機関投資家” の三層構造での販売” を示しており、
実質的には
アンジェスがCantorに“海外への販売窓口”を委託した構造
である。
これは、通常の第三者割当では珍しい。
通常は発行者が直接海外投資家と取引するが、今回は 欧州証券会社が「仲介兼ホルダー」として機能し、後から市場に放出するスキームとなっている。
19.99%という“既存株主への圧力”
保有目的は「純投資」。
しかし実態は、未来の希薄化と資金回収を見込んだ金融商品ビジネス である。
19.99%は、
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外資による筆頭級ポジション
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将来の株式行使で需給を支配しうる比率
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行使停止権限によりアンジェス側も制御可能という緊張関係
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既存株主の希薄化懸念を強烈に増幅する比率
アンジェスはこれまでにもワラント・MSワラント・第三者割当を繰り返してきたが、今回のスキームは 欧州投資銀行の“手”が入った高度型だ。
市場は当然、
“外資が新株予約権を受け取り、売却益を狙う構造ではないか”
と疑う。
その疑念を払拭する材料は、現時点では見当たらない。
論評
バイオ企業の資金調達を食い物にする「欧州資本の装置化」
アンジェスは、バイオ創薬企業としての使命を掲げながら、長年にわたり赤字・希薄化・資金調達依存に苦しんできた。
その結果、本来は研究資金確保のための新株予約権が、欧州金融機関の“収益装置”へと変質した。
Cantor は“純投資”を名乗るが、その実態は
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新株予約権の海外転売
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リスクを最小限に抑えた金融商品化
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将来の売却益を狙う権利ビジネス
といった、「発行体の苦境を収益源にするモデル」 そのものだ。
アンジェスの財務基盤の弱さ、日本バイオ企業の恒常的資金赤字、ガバナンス体制の脆弱性。
これらが複合し、海外投資銀行の“資金装置化”スキームを招いた。
今回の19.99%取得は、単なる大量保有ではない。
日本のバイオ企業が、海外金融機関の“ワラント工場”になっている構造的危険性
を示す、極めて象徴的な事例である。
アンジェスが求められるのは、資金調達モデルそのものの再設計だ。
このままでは、企業価値は研究開発ではなく、外資の金融スキームに左右され続けることになる。

