
なぜアシロを選んだのか
2025年12月、東証上場企業 株式会社アシロ(7378) を巡り、一通の大量保有報告書が提出された。
提出者は、英国ロンドンを拠点とするアクティビストファンド
アセット・バリュー・インベスターズ・リミテッド(Asset Value Investors Limited/以下AVI)。
直前に市場を騒がせた「マッコーリー型の静かな支配」とは異なり、この報告書は最初から“立場と意図”を明確にした、極めて正統派のアクティビズム宣言である。
まず押さえるべき前提
AVIとは
AVIは1985年設立。
40年近い歴史を持つ、欧州でも老舗のバリュー特化型アクティビストファンドだ。
その投資スタイルは一貫している。
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割安に放置された上場企業
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ガバナンスが弱い、または資本効率が低い
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内部留保や事業構造に歪みがある
こうした企業に対し、株主として明確に「提案する」ことを前提に株式を取得する。
重要なのは、AVIは「沈黙しない」点にある。
保有目的に明記された“重要提案行為”
今回の大量保有報告書で、AVIはこう明記している。
「純投資及び重要提案行為等を行うこと」
「持続的な企業価値の向上に向けた重要提案行為等を行う可能性がある」
これは、日本の大量保有報告書の中では、最も踏み込んだ部類の表現だ。
つまりAVIは、最初から「物言う株主」であることを隠していない。
数字で見るAVIのポジション
AVIが取得したアシロ株は以下の通り。
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保有株式数:500,400株
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発行済株式総数:7,380,568株
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保有割合:6.78%
一見すると、マッコーリーの22.92%と比べれば小さく見える。
だが、アクティビズムの世界では、5〜10%は「発言力を持つには十分すぎる水準」である。
取得プロセスが示す“本気度”
今回の取得履歴を見ると、AVIは2025年12月初旬から連日、着実に市場内で株式を積み上げている。
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12月3日〜12月12日まで、ほぼ毎日取得
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市場内取引が中心
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一部市場外取引も交えつつ、平均1,400円台で取得
これは、短期の値幅狙いではなく、腰を据えた株主になる意思表示だ。
資金も、
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借入ではなく
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ファンド資金(約6.9億円)を使用
典型的なアクティビストの入り方と言っていい。
なぜアシロだったのか
注目するのは、なぜこのタイミングで、なぜアシロなのか」という点だ。
アシロは、
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法律×ITという分かりやすい成長テーマ
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一方で、株価は必ずしも事業成長を反映していない
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中小型株ゆえにガバナンス面の緊張感が薄れやすい
こうした条件は、AVIの投資哲学と極めて相性が良い。
マッコーリーとの決定的な違い
ここで、先ほどのマッコーリー案件と比較しておきたい。
| 観点 | マッコーリー | AVI |
|---|---|---|
| 保有割合 | 22.92% | 6.78% |
| 手法 | 新株予約権+借株 | 現物株式 |
| 保有目的 | 純投資 | 純投資+重要提案 |
| スタンス | 沈黙 | 明示的 |
| 本質 | 構造支配 | アクティビズム |
AVIは、市場ルールの中で、最も正面から企業と向き合うタイプの株主だ。
注目の視点
6.78%は「始まり」にすぎない
論評社が注目するのは、この6.78%がゴールではなく、スタートラインである点だ。
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今後の追加取得はあるのか
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経営陣との対話は始まるのか
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株主提案・書簡は出されるのか
AVIは、動くときは必ず“形”を残す。
論評
アシロは、問われる側に立たされた
今回の大量保有は、アシロにとって「歓迎すべき株主の出現」である可能性もある。
だが同時に、経営の説明責任が、これまで以上に厳しく問われる局面に入ったことも意味する。
22.92%の“静かな支配”と、6.78%の“明確な提案”。
日本市場は今、二つの異なる外国人株主像を同時に突きつけられている。
そしてアシロは、その後者の最初の舞台となった。

