
新株予約権を通じて構築された「実質支配型ファイナンス」の全体像
2026年1月9日、関東財務局に提出された大量保有報告書により、ケイマン諸島籍の投資ファンド Evo Fund が、東証グロース上場の 株式会社FIXER の株式等を 22.81% 保有していることが明らかになった。
本件の最大の特徴は、この22.81%が 普通株ではなく、新株予約権を中核とした潜在株式ベースで構成されている 点にある。
単なる大株主の出現ではなく、資金調達と資本政策を一体で設計する「ファイナンス主導型の関与」が、FIXERに深く入り込んでいることを示す事例だ。
22.81%という「過半数未満の支配ライン」
22.81%という比率は、法的には支配株主には該当しない。
しかし実務的には、
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株主総会において強い影響力を持つ
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他の株主の意思決定を事実上左右し得る
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経営陣にとって無視できない存在
という、実質支配に極めて近い水準である。
しかも、この比率は市場内での株式買い集めによるものではない。
第三者割当による新株予約権(第3回・第4回・第5回)を通じて構築されており、将来の行使次第で、影響力はさらに強まる構造となっている。
大量保有報告書の事実整理
提出書類から読み取れる主な内容は以下の通りである。
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報告義務発生日:2025年12月29日
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提出日:2026年1月9日
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提出者:Evo Fund
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発行体:株式会社FIXER
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発行済株式総数:14,813,400株
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保有株券等の数(総数):4,200,000株相当
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うち普通株式:600,000株
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うち新株予約権:3,600,000株相当
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株券等保有割合:22.81%
新株予約権の取得状況を見ると、
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第3回新株予約権:1,200,000株相当(取得単価0.33円)
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第4回新株予約権:1,200,000株相当(取得単価0.28円)
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第5回新株予約権:1,200,000株相当(取得単価0.24円)
と、極めて低コストで潜在株式を大量に確保している点が際立つ
Evo Fundとは
Evo Fundは、2006年設立のケイマン諸島籍ファンドで、日本の中小型上場企業を中心に、新株予約権・転換社債・第三者割当を活用したファイナンス投資を数多く手がけてきた。
その投資スタイルの特徴は明確だ。
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市場内で株を買い集めるのではなく
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資金調達の受け皿として企業に入り込み
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株価変動リスクを抑えつつ、潜在的な株式価値を確保する
これは、事業の成長そのものに賭けるというより、「資本政策が繰り返される構造」から収益機会を得るモデルといえる。
FIXERという企業の「ファイナンス依存構造」
FIXERは、クラウド・AI・政府向けDXなどを手がけるIT企業であり、成長余地の大きい分野に事業を展開している一方で、
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継続的な資金調達が不可欠
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株式希薄化を伴うファイナンスが常態化しやすい
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株価は需給と資本政策に大きく左右される
という特徴を持つ。
この構造は、新株予約権を活用するファンドにとって極めて相性が良い。
なぜEvo FundはFIXERに深く入ったのか
Evo Fundの視点に立てば、FIXERは合理的な投資対象だ。
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成長分野に属し、資金需要が継続する
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新株予約権による調達に企業側の抵抗が少ない
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行使価格を通じてリスクを限定できる
結果として、株主というより「資本政策のパートナー」に近い立場を確保することができる。
実際、本件では、
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借株(600,000株)
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新株予約権の大量取得
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譲渡・行使に関する取締役会承認条項
など、企業の資本行動を強く縛る条件が付されている。
「純投資」と「経営助言」のあいまいな境界
保有目的には、「純投資であり、状況に応じて経営陣に助言を行う場合がある」と記載されている。
これは、
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表向きは純投資
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しかし、経営との距離は極めて近い
という、グレーゾーンの関与を示す典型的な文言だ。
22.81%という比率と新株予約権構造を踏まえれば、この保有は 「静かな助言」にとどまらない影響力を持つ。
論評
本件は、FIXER一社の問題ではない。
東証グロース市場において、
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成長資金を求める企業
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新株予約権を武器とするファンド
が結びつくことで、過半数を取らずとも実質支配が成立する構造が常態化している現実を映している。
Evo Fundの 22.81% は、単なる持株比率ではない。
それは、「資本政策を通じて経営に影響を与える力」を数値化したものだ。
FIXERがこの関係を成長のレバレッジとして使えるのか、それとも資本市場側に主導権を握られ続けるのか。
本件は、日本の成長企業が直面する構造的課題を鋭く突きつけている。

