
利益率の美しさと、現金の沈黙
2025年3月期・第29期中間。オープンハウスグループの決算は、見た目には極めて鮮やかだった。
売上高6,434億円、営業利益737億円、営業利益率は11.5%。不動産セクターとしては異例の高利益率に見える。
しかし、その輝かしい数字の背後で、もうひとつの決算が静かに語られている。
営業キャッシュフローは、わずか52億円──利益の9割以上が現金として回収されていない。
これは単なるタイミングの問題ではない。
そこには、「調整」と「帳尻合わせ」の構図が横たわっている。
本稿では、オープンハウスの財務諸表と注記情報を精緻に読み解き、どこに最も強い会計的“調整圧”がかかっていたのかを探る。
そしてそれが、企業としての中期的リスクとどう繋がるのかを、論評社の観点で追及する。
なぜ“営業利益率”がこれほど跳ね上がったのか?
営業利益率の急増(+32.4%)は、確かに成果のように見える。
しかし実際には、売上高の増加は+6.7%に過ぎない。にもかかわらず、営業利益は180億円も増えている。
この“不均衡”を作り出しているのは、主に二つの要因である。
● 要因①:収益不動産セグメントの異常な利益跳ね上がり
セグメント | 売上高増加率 | 営業利益増加率 |
---|---|---|
収益不動産 | +9.2% | +131.5% |
この数字が意味するのは、「売上は少ししか伸びていないのに、利益は2倍以上に膨れ上がった」という構造である。
これは典型的な“利益率ジャンプ”であり、原価調整・引渡集中・評価裁量といった操作的要素が影響した可能性が高い。
収益不動産は原価積算が複雑で、プロジェクト別に粗利率が大きくぶれる。
不動産業界ではこのセグメントこそが、「利益を“作る”領域」である。
● 要因②:販管費の異様なコントロール
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売上高:+6.7%
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販管費:+6.8%(421億円 → 450億円)
一見連動しているように見えるが、内訳を見れば以下の通り:
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給与支給総額:+13%
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賞与引当金:+24%
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役員報酬:+5.3%
にもかかわらず、販管費はぴたりと売上と連動。
つまり、人件費が増えているのに、販管費率が変わらない。
この“静かすぎる成長”には、コストの時期ズレ計上、あるいは会計上の弾力的判断が含まれていた可能性がある。
「利益はあるのに、現金がない」──営業CFの異常な乖離
営業利益:737億円
営業キャッシュフロー:たった52億円
この“キャッシュギャップ”は、次の2項目に集約される。
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■ 棚卸資産(仕掛含む)の期中増加:+392億円
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■ 営業貸付金の増加:+157億円
両者合計で550億円以上の現金が、BS内で“止まっている”ことになる。
つまり、帳簿上は利益が出ているが、それは「在庫」と「貸付」の中に眠ったままの利益にすぎない。
さらに注記には、
「販売用不動産から賃貸用への振替」
「固定資産から販売用への逆振替」
といった会計方針変更がいくつも確認される。
これは、どのBS科目にどう資産を“見せるか”の問題であり、操作性が高い。結果としてPLとCFの乖離はますます拡大する。
非支配株主持分の“排除”と資本戦略
当期は、子会社プレサンスの完全子会社化を完了し、非支配株主持分が610億円も一掃された。
一方、グループは借入で調達した993億円のうち、
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株式取得(プレサンス):522億円
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自社株買い+配当:160億円
を投下している。
つまり、借金で自分の株と子会社の株を買っている。
これは財務レバレッジ戦略であり、うまくいけばROEは改善するが、逆回転すれば負債の重みに耐えられない構造でもある。
結論:もっとも調整されているのは、「利益そのもの」ではなく「利益の見せ方」である
調整されているのは販管費でも原価でもない。
“利益の出し方”全体が、キャッシュフローから乖離して調整されている。
今期、営業利益率は確かに美しい。だがそれは「現金を生まない利益」によって構成されていた。
そこに強い調整圧が働いたとすれば、それは帳簿の操作ではなく、「構造そのもの」に手が加えられたということだ。
これは“調整された利益”ではない、“設計された帳簿”ではないか
我々は、この決算に現れた“利益の美しさ”だけを信じない。
そこに現金が伴わず、在庫と貸付金が積み上がり、営業利益率だけが異様に跳ね上がる構造がある限り、それは調整の痕跡であり、設計された帳簿にすぎない。
オープンハウスが描く“成長”の背後に、会計操作の余地があるのなら、我々はその全容を暴く。
論評社は、ここに宣言する──この決算の核心に至るまで、徹底的に追及する。