
沈黙の英国ファンドが狙う資本効率改革の標的とは
2025年7月16日、英国ロンドン拠点の独立系投資顧問会社ゼナー・アセット・マネジメントLLPは、ハイレックスコーポレーション株式会社の発行済株式38,216,759株のうち1,972,600株(5.16%)を保有していることを関東財務局に提出した大量保有報告書で明らかにした。
ゼナーは「投資一任契約に係る顧客資産の運用を目的とする純投資」としながらも、「状況に応じて経営陣との意見交換、資本効率化に関する重要提案行為等を行う可能性」を明言。
これは制度内アクティビズムの地ならしともいえる宣言である。
ゼナー・アセット・マネジメントとは?
ゼナー・アセット・マネジメントLLPは2002年に英国で設立された独立系のアクティブ・ファンド運用会社であり、以下のような特性を有している。
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本社所在地:英国ロンドン、デューク・オブ・ヨーク・スクエア86番地
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設立年:2002年7月
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運用スタンス:ディープ・バリュー戦略(PBR・ROE低位銘柄への資本参加)
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投資地域:日本株を主対象にしており、スタンダード市場の中堅企業にも積極的
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法務代理人:日本国内ではサウスゲイト法律事務所(弁護士・飯谷武士氏および川城瑛氏)が窓口を務める
ゼナーの投資手法は、いわゆる「サイレント・アクティビズム」として知られ、保有比率は5~7%程度に留めつつも、経営陣と非公開の対話を通じて資本効率やガバナンスの改善を促すスタイルが特徴である。
取得の経緯
2ヶ月にわたり緻密に買い集めた“静かな構築”
報告書によると、ゼナーは2025年5月14日から7月9日までの約2ヶ月間にわたり、1日あたり数千〜数万株規模で分散して株式を取得。
市場内取引と市場外ブロックディールを組み合わせ、価格変動を最小限に抑えた巧妙な累積戦略を採った。
取得単価は
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初期段階(5月14日)では1,535円
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終盤(7月9日)では2,272円に到達
というように、取得期間中の平均単価は約2,000円前後と推察され、約3.6億円(3,684,929千円)を顧客資産から投入している。
【3】ハイレックスとは?
財務健全だが資本効率に課題残る“機構部品の名門”
ハイレックスコーポレーションは、自動車用コントロールケーブルおよび電装・機構部品を展開する老舗メーカーであり、以下の財務的特徴を有する。
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自己資本比率:約60%以上
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有利子負債は限定的
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現預金は潤沢(キャッシュ保守主義)
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ROE:5%台前後
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PBR:0.5〜0.6倍台と長期的に1倍割れ
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株主構成:創業者ファミリー、銀行系、年金基金などが上位
こうした高い財務安全性と低い資本効率の共存は、ゼナーのようなファンドが好む「改善余地の大きいターゲット」となりやすい。
保有目的と提案可能性
“表向きは静か”だが“水面下は動的”
ゼナーの保有目的欄には以下のように記されている:
「投資を主な目的とするが、状況に応じて運営および資本の効率化に向けて、発行者の経営陣との意見交換や、重要提案行為等を行う場合がある」
これは、以下のアクションを可能にする“余白”を意図している。
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ガバナンス改善(取締役会の独立性強化など)
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自己株取得提案による資本コスト是正
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配当性向の引き上げや中期経営計画への目標数値の明示
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株主向けIR活動の質的拡充
つまり、提案がなくともその可能性を担保することで、企業側に常時“見えない圧力”を与える戦略といえる。
“静かなる英国資本”がスタンダード上場企業を揺さぶる
ゼナー・アセット・マネジメントによるハイレックス株の5.16%取得は、表面的には静かで制度に則った保有だが、その実態は“企業体質への変革圧”を内包する明確なメッセージである。
それは、TOBや経営参加といった激しい手法ではない。
しかし、保有比率、資本構成、取得ペース、意図の記載を合わせれば、企業経営者が無視できない「構造的影響者」としての存在感を放っている。
2025年、日本のスタンダード市場では、こうした**「見えない主張」が企業価値を動かす主役の一角**となりつつある。