決算分析/株式会社CaSy

黒字化達成、自治体連携とM&Aで加速する“時間価値”産業の再構築

― 家事支援×DXが示す「プラットフォームモデルの次の地平」―

概要:テックとリアルが交錯する「家事支援インフラ企業」

株式会社CaSy(カジー)は、「大切なことを、大切にできる時間を創る。」をミッションに掲げ、家事代行を中心とした暮らしの時間創出型サービスのプラットフォーム運営企業である。

単なるマッチングに留まらず、依頼から支払い・評価までをオンラインで完結するUXと、現場の“キャスト”と呼ばれるスタッフとの関係構築によって、家事のアウトソーシングを社会インフラ化しつつある点に特徴がある。

2025年5月期中間では、従来の家事代行・料理代行に加え、M&Aによってハウスクリーニング事業を新たに内包し、包括的な生活支援企業へと進化を試みるフェーズに突入している。

財務サマリー:上場後初の連結決算で黒字化を達成

指標 2025年5月中間期(連結)
売上高 898百万円
営業利益 13百万円
経常利益 16百万円
親会社純利益 9百万円
自己資本比率 41.4%
営業CF +17百万円
現預金残高 341百万円

注目すべきは、初の連結中間決算で黒字を計上した点である。

これまで赤字が続いていた家事代行業界において、テック主導かつリアルビジネスを扱うスタートアップが営業黒字→経常黒字→最終黒字という一貫性を持って収益化した意義は大きい。

成長戦略:行政連携とM&Aによる「水平拡張」

CaSyの足元の成長は、単なる家事代行の枠に収まらない。今回の報告書に記載された動向からは、大きく2つの成長路線が見て取れる。

① 行政との連携強化

  • 豊島区・国分寺市との子育て家庭支援事業を実施

  • 2025年5月末時点で、東京都内5自治体と連携交渉中

近年、少子化対策の一環として国や自治体が「家事代行の行政サービス化」を進めており、CaSyはその実行部隊としての位置づけを強めている

これは、BtoCからBtoG(行政)への販売チャネル拡張に他ならず、サブスクリプションモデルとは異なる行政補助付きの需要獲得手法でもある。

② ハウスクリーニング事業のM&A

  • 2025年2月、すっきりマイスター社を15百万円で子会社化

  • のれん22百万円を計上(5年均等償却)

同社は“専門性の高い清掃スキル”を持つハウスクリーニング業者であり、家事代行との重複領域を保ちながらも付加価値と客単価の高い領域を担っている。

既存のキャスト採用網とプラットフォームを融合させることで、CaSy全体の単価引き上げとLTV拡張が期待される動きだ。

キャッシュフローと資本構成:安定した現金確保と低リスク運営

CaSyは、資産構成やキャッシュフローにおいてもバランスが取れている。

  • 営業CF:+17百万円(営業黒字の反映)

  • 投資CF:▲16百万円(主に無形資産取得)

  • 財務CF:+51百万円(主に長短期借入での調達)

現預金は341百万円にまで積み上がっており、自己資本比率も41.4%と上場スタートアップとしては優秀な水準を維持している。

特筆すべきは、M&Aにかかったコストが自己資金内で完結している点であり、エクイティを過度に希薄化させず、また有利子負債の比率も抑制的であることから、慎重かつ実直な経営姿勢が透けて見える。

 「時間創出サービス」という新カテゴリ

家事代行市場は、かつてはニッチで高価格帯の富裕層向けサービスであったが、現在では「共働き世帯の家事アウトソース需要」と「少子化対策に伴う行政予算」の双方によって中所得層にも裾野を広げつつある。CaSyはこの波において、次のような差別化ポイントを有している。

  • オンライン完結型マッチング+品質保証体制の整備

  • キャスト正社員化による人材安定供給と信用力強化

  • リアルサービスでありながら「テックの力で利益が出せる構造」を確立

今後の課題は、以下の3点に集約される。

  1. 自治体連携の全国展開と収益構造への反映

  2. M&Aによって拡張された新規事業のLTV回収効率

  3. 競合との差別化を維持するUI・UX・人材管理体制の継続的投資


この会社は「地味」だが、「本質的」だ

派手な成長性や爆発的な株価ストーリーはないかもしれない。だがCaSyの決算には、小さな黒字と着実な財務構造、そして明確な事業軸に基づいた水平拡張戦略がある。

生活者の“時間価値”が見直されるこの時代に、「時間を創る」ことを主業に据える企業は、消費者の行動変容に寄り添う形で進化できる
その道のりは、たしかに長い。だが、確実に、社会に求められている。

おすすめの記事