
香港系ファンドの大量取得が示す資本市場の盲点
2025年9月19日、香港拠点の投資会社 ロング・コリドー・アセットマネジメント(Long Corridor Asset Management Limited) は、スターシーズ株式会社(3083・東証スタンダード)の大量保有報告書を提出した。報告義務発生日は9月18日。
保有株数は 2,300,000株(発行済株式6,056,800株の28.55%) に達し、第三者割当増資を通じた新株予約権の引受が大半を占める。
単なる市場取引ではなく、ファンドと発行会社の直接的な資本取引であり、中小型株市場における資本政策の脆弱性を浮き彫りにした。
スターシーズとは
店舗運営支援を軸にした中小型株
スターシーズは、フードサービスや小売業向けにシステム開発や運営支援を行う企業。
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基幹システム構築:店舗管理や在庫管理の効率化。
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アウトソーシング支援:フランチャイズ展開や店舗運営のサポート。
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デジタル施策:ECや顧客管理システムとの統合。
市場での知名度は低いが、国内小売・外食業界の再編ニーズを背景に安定した需要が期待される。
ただし、資本力が弱く、成長戦略の遂行には外部資金への依存が避けられない構造がある。
ロング・コリドーとは
アジア新興市場に特化する投資家
ロング・コリドー・アセットマネジメントは2018年設立、香港セントラルに拠点を置く投資会社。
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代表者:ジェームズ・シンジュン・ツー(Director)
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事業内容:アジア新興企業や中小型株への投資運用。
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日本法人:東京丸の内にも拠点を持ち、国内上場企業への直接投資を加速。
今回の報告では、「純投資」目的とされつつも、取得形態は極めて特徴的だ
保有内容の詳細
新株予約権を通じた大量取得
報告書によると、
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普通株式:300,000株(市場外取引/借株)
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第5回新株予約権:700,000株(1個当たり468円で引受)
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第6回新株予約権:700,000株(1個当たり176円で引受)
合計2,300,000株、保有比率28.55%
これは市場での買付ではなく、発行会社が実施した第三者割当増資を直接引き受けた構造である。
しかも、新株予約権の行使価格は市場価格を大きく下回る水準で設定されており、低コストでの大規模取得が可能となっている。
資金調達の仕組みとリスク
ロング・コリドーは、複数の投資ファンド(LCAO、MAP246、BEMAP)との投資一任契約を通じて資金を動かしており、今回の新株予約権取得もその枠組みで行われた
また、取得資金の一部は メリルリンチ・インターナショナルからの借入(約5,468万円) を通じて賄われている点も明示されている。
さらに、株式貸借契約として「サステナブルエナジー投資事業有限責任組合」へ一部株式を貸し出す枠組みも存在し、資金調達・株式取得・貸借スキームが複雑に絡み合う構造を見せている。
投資家にとっての意味合い
チャンスとリスク
今回の開示は、投資家にとって二面性を持つ。
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ポジティブ材料
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香港系ファンドによる大規模資本参加は、成長資金の確保を意味し、スターシーズの事業拡大余地を広げる。
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株価の短期的な刺激材料となり得る。
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リスク要因
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低価格での大量発行は既存株主の希薄化リスクを伴う。
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投資ファンドの意向次第で、将来的な売却圧力に転じる可能性もある。
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借入を伴うスキームは、ファンドの資金繰りに依存する側面を強める。
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「28.55%保有」が示す日本市場の脆弱性
ロング・コリドーによるスターシーズ株28.55%取得は、
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中小型株が外部資金に依存せざるを得ない現実
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第三者割当増資の割安価格が招く既存株主の不利益
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海外ファンドに依存した資本政策の危うさ
を浮き彫りにした。
投資家にとっては短期的な株価材料であると同時に、日本市場の制度的脆弱性を突く典型事例として注視すべき案件である。
スターシーズの今後の経営方針と、ロング・コリドーの動向次第で、株価は大きく揺れる可能性がある。