ソニーが切り出した金融事業

SFGIスピンオフの真相

第1章 スピンオフの舞台裏

2025年9月29日、ソニーフィナンシャルグループ(SFGI、証券コード8729)が東京証券取引所プライム市場に新規上場した。

同日提出された大量保有報告書によれば、ソニーグループ株式会社はSFGIの株式を7,149,358,214株、発行済み株式の100%保有していた。

そして翌10月1日、この株式の大部分を現物配当として株主に分配し、金融事業を「切り離す」スピンオフを実行した。

表向きは株主への還元策。しかし実態は、ソニー本体から金融リスクを切り離し、株主に直接押し付ける構図である。

100%保有と現物配当のカラクリ

スピンオフの直前、ソニーは2025年8月8日に市場外で約67億株(93.91%)を取得。

その後の株式分割により最終的に100%保有を整えたうえで、株主へ現物配当として放出するシナリオを描いた。

一見すると「完全子会社からの自律的独立」に見えるが、その裏側では形式的に100%支配を整えてから切り離すという資本政策上の演出が行われていた。

これは果たして株主の利益のためか、それとも本体企業の「純化」のためか。

借入に依存した資金構造

報告書の資金調達欄は、このスピンオフのもう一つの素顔を示している。

  • 自己資金:約398億円

  • 借入金:約3,953億円(主力は三井住友銀行)

  • 合計:約4,352億円

取得株の多くは過去の会社分割や株式分割で獲得しているが、直近では借入金が全体の9割を占める。

ここに浮かび上がるのは「金融事業を切り離すために、再び銀行に依存する」という矛盾した構図である。

金融リスクを分離するどころか、むしろ銀行との関係を深めたにすぎない。

アクティビストの視点から

このスピンオフに対して、次のような批判点が浮かぶ。

  1. 利益相反の懸念
     SFGIは独立後もソニーとの関係を維持する可能性が高い。名目上は「分離」だが、実態は系列構造が残存する。

  2. 株主へのリスク転嫁
     ソニーは金融事業を切り離すことで「エンタメとテクノロジー純化企業」としての評価を高める。一方で、株主は望まずとも新設上場株を抱え込むことになる。

  3. 銀行依存による資本操作
     巨額の借入に支えられたスピンオフは、資本市場による健全な評価ではなく、銀行との馴れ合いで成立している。独立上場の健全性を損なう危険性がある。

「改革」か「方便」か

ソニーはスピンオフを「株主への還元策」と説明する。しかし、実態は「金融リスクの転嫁」「銀行依存の再強化」「形式的な100%支配」といった側面を併せ持つ。

本体の評価を高めるための「純化」は理解できる。だがその陰で、株主に金融リスクを押し付けてはいないか。

この動きは一企業の資本政策を超えて、日本の市場制度に対する根源的な問いを突きつけている。

──スピンオフは本当に株主のためなのか。それとも経営者の都合を「改革」の名で覆い隠す方便なのか。

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