
世界的老舗バリュー投資家が注目する“日本の空気の支配者”
第1章 報告書の概要
2025年10月6日、米国ニューヨークを拠点とする著名投資顧問会社ファースト・イーグル・インベストメント・マネジメント(First Eagle Investment Management, LLC/以下FEM)が、SMC株式会社(証券コード6273、東証プライム)の株式を5.12%保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は9月30日で、保有株数は3,269,850株。うちADR(米国預託証券)を含む94,319株が海外投資家経由で保有されている
この保有は、投資顧問契約に基づく顧客資産の運用として行われており、短期投機ではなく長期の資本成長を目的としたバリュー投資型ポジションである。
ファースト・イーグルという投資家
ファースト・イーグルは1930年代創業、ニューヨークに本社を構える世界屈指のバリュー投資家である。
代表のデビッド・オコナー(David O’Connor)を中心に、創業以来「資本保全と長期的リターンの両立」を掲げ、グローバル株式・債券・オルタナティブ資産を運用している。
その投資哲学は、バフェット流とも通じる「安全域(margin of safety)」を重視するものであり、リスクを抑えつつ実質的価値を持つ企業に中長期的に資金を投じる。
FEMは日本市場でも活動しており、過去にはHOYA、キーエンス、東京エレクトロンなど製造業を中心に投資。今回のSMC取得は、同社の製造業セクターにおける強いグローバル信頼の証でもある。
保有構造
米国・欧州の年金資金が日本へ
報告書によると、FEMが投資判断を行う顧客ファンドは20本以上に及ぶ。代表的なものに、
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First Eagle Global Fund(約183万株)
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First Eagle Overseas Fund(約62万株)
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First Eagle Amundi International Fund(約22万株)
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National Pension Service(韓国年金基金/約8万株)
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Local Pensions Partnership Investments Ltd(英国地方年金運用機構/約9万株)
などが含まれている
これらの顧客資金には、米欧の公的年金・基金資金が多数含まれており、日本の優良製造業が「グローバル長期マネー」の投資先として認知されている証左といえる。
さらに、共同保有者として同社グループのFirst Eagle Separate Account Management, LLCも開示されており、グループ全体でSMC株の5.12%(約326万株)を保有している構造だ。
SMCの魅力
“空気”を制する者が産業を制す
SMC株式会社は、産業用オートメーション分野の世界的トップ企業。
空圧制御機器(エアシリンダー・バルブ・コンプレッサー等)の分野で国内シェア60%、世界シェア40%を超える。
工作機械、自動車、電子部品、食品、医療など幅広い産業で「空気を動力源とした自動化」を担う存在であり、いわば“産業の呼吸器官”とも呼ばれる。
株式市場では、2024年以降の世界製造業回復期待と円安追い風を受け、SMC株は堅調に推移。
時価総額は7兆円規模に達し、国内製造業の中でも資本効率と利益率の高さで群を抜く存在となっている。
こうした企業が、グローバル長期投資家の「守りのポートフォリオ」に組み込まれるのは必然だ。
視点と論点
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米国長期資本の「日本製造業回帰」
米国・欧州の年金基金が再び日本企業への投資を拡大している。SMCのように技術・財務・ガバナンスが整った企業が選ばれる傾向が鮮明だ。 -
ADR経由の資本流入
ADR(預託証券)を通じた投資が全体の約3%を占め、米国投資家層の厚みを示す。海外での取引流動性の高さもSMCの強みである。 -
アクティビズムとは異なる「静かな影響力」
FEMはアクティビストではないが、経営陣との建設的対話を重視し、
「株主として企業の永続性を支える」スタンスを取る。これが「Quiet Engagement(静かな対話)」と呼ばれる同社の流儀だ。
“静かな資本”が選んだ日本製造業の象徴
ファースト・イーグルによるSMC株の5.12%保有は、単なる投資報告にとどまらない。
それは、日本製造業がグローバル長期資本にとって「信頼できる投資対象」に復権した証である。
短期マネーが去った市場に、静かに長期資本が戻ってくる――。
その象徴として、空気を動かすSMCが選ばれたことは、日本経済にとって極めて意味深い。
──製造業の未来は、再び「静かな資本」が支えている。