
米系投資家が仕掛ける“転換社債+新株予約権”の資本戦略
報告書が示す事実
2025年10月21日、米国デラウェア州に本拠を置く投資会社ハイツ・キャピタル・マネジメント(Heights Capital Management, Inc.)が、クオンタムソリューションズ株式会社(2338、東証スタンダード)の株式を37.09%保有していることが明らかになった。
報告義務発生日は10月14日、保有株式数は27,200,000株(潜在株含む)に達する。
その内訳は、
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第13回新株予約権:14,000,000株(行使価額355円)
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第14回新株予約権:10,000,000株(行使価額486円)
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第4回無担保転換社債型新株予約権付社債(CB):3,200,000株(転換価額646円)
の3種類で構成され、すべてが2025年10月14日付の第三者割当により取得された。
ハイツ・キャピタルとは何者か
ハイツ・キャピタル・マネジメントは1996年設立の米国系投資会社。所在地はデラウェア州ウィルミントンのOne Commerce Center, 1201 North Orange Street, Suite 715。
代表はマーティン・コビンガー(Martin Kobinger)氏で、グローバルでの転換社債・パイプ投資(PIPE)・ストラクチャードファイナンスを専門とする。
同社は米NASDAQ市場でも中小型株への“ハイブリッド・キャピタル投資”を得意とし、
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新株予約権(ワラント)とCBを組み合わせた資金供給モデル
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転換時の価格調整機構(リセット条項)によるリスクコントロール
を特徴とする。
日本では、テック系ベンチャーやブロックチェーン関連企業を中心に、流動性確保を目的とした「資本提携型ファイナンス」に関与してきた実績がある。
取引の実態
37%という支配的ポジション
報告書によると、ハイツはCVI Investments, Inc.(ケイマン籍ファンド)**との間で投資一任契約を締結し、同社の運用資金を使ってクオンタムソリューションズ株を取得している。
このCVI Investmentsは、スイスのCredit Suisse傘下で活動していたConvertible Arbitrageファンドの流れを汲む機関投資家として知られ、ハイツが実質的な運用代行を担っている構図だ。
今回の資金供給額は総額約2億1,655万円で、全額がCVIの運用資金(借入なし)によって拠出されている。
このうち、第13回および第14回新株予約権はそれぞれ譲渡時に取締役会承認を要する契約であり、さらに発行者が一定取引を行った場合には「ブラック・ショールズ価格」での買戻し請求が可能」と明記されている。
つまり、ハイツ側は市場リスクを抑えながら転換権行使やワラント売却で流動的な利益確保を狙う設計を施している。
クオンタムソリューションズとは何者か
クオンタムソリューションズは、ブロックチェーン・Web3.0技術を応用したソリューション提供企業。
元々はシステム開発・アウトソーシングを手掛けていたが、近年は暗号資産関連技術・NFTプラットフォーム・AIデータ解析などへ事業転換を進めている。
2023〜2024年にかけて資金繰りが悪化し、営業赤字を継続。
今回の第三者割当は、経営再建とWeb3事業の拡大資金確保を目的としたものであり、ハイツの出資は同社の“最後の資金ライン”として位置づけられる。
だが、発行済株式数4,613万8,593株に対して潜在株式2,720万株(37.09%)という比率は、将来的に支配権が移動する可能性を含んでおり、経営の独立性を保てるかが焦点となる。
取引契約の特徴とリスク
報告書には、取得した新株予約権・転換社債の主な条項として以下が記載されている。
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譲渡時の取締役会承認が必須(全シリーズ共通)
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第14回新株予約権:発行者による取引行為が一定条件を満たす場合、CVI側が買戻しを要求できる条項付き
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第4回転換社債:特定事由発生時には、発行者が残存分を時価で償還する義務
これらは、投資家保護とリスクヘッジを目的とした契約上の防衛設計である一方、企業側にとっては資金調達後も経営の自由度が制限される可能性を孕む。
視点と論点
ストラクチャード・ファイナンスの境界線
ハイツの投資は“純投資”とされているが、実態は金融工学的スキームによる経営支援+オプション収益型投資である。
ブロックチェーン企業の資本調達難
日本では依然として暗号資産関連企業の銀行融資が難しく、海外ファンドの「ハイブリッド金融」に頼る構造が続く。
経営支配のリスク
潜在株比率が高いため、株価下落局面でワラント行使が集中すれば、既存株主の持分希薄化と経営主導権喪失が起こりうる。
“金融工学資本”が支える日本の新興企業
ハイツ・キャピタル・マネジメントによるクオンタムソリューションズ株37.09%保有は、単なる出資ではなく、金融技術を駆使した企業再生型投資である。
これは、ベンチャーキャピタルが撤退し、銀行も手を出せない領域において、“ストラクチャード・キャピタル(構造型資本)”が果たす新しい役割を示している。
資本市場の最先端では、もはや「貸すか」「買うか」ではない。
そこにあるのは、“数式でリスクを制御しながら企業を延命させる”新しい資本主義の姿である。
