
中西体制が盤石化する“創業経営の要塞化”
報告書が示す事実
2025年10月24日、ブロードエンタープライズ(4415)の代表取締役である中西良祐氏および関連会社が提出した変更報告書によれば、中西氏ら創業家の共同保有比率は73.08%に達したことが明らかになった。
報告義務発生日は10月20日で、前回報告(72.20%)から約0.9ポイント増加している。
今回の報告で確認された保有者の内訳は以下の通りである。
| 保有者 | 株数 | 持株比率 | 主な属性 |
|---|---|---|---|
| 中西良祐 | 1,144,000株 | 18.40% | 代表取締役・個人 |
| 株式会社ディーアイ | 3,340,000株 | 54.62% | 中西氏の資産管理会社 |
| 中西美津代 | 134,000株 | 2.16% | 同社取締役・親族 |
| 合計 | 4,618,000株 | 73.08% | — |
発行済株式数は6,115,500株であり、創業家の議決権がほぼ四分の三を握る構造となった。
中西氏本人の直接保有分に加え、資産管理会社ディーアイを通じた間接保有を含む「創業家ブロック」が形成されている。
創業家の構成と保有形態
報告書によれば、中西良祐氏はブロードエンタープライズ代表取締役社長であり、「安定株主としての長期保有」を目的としている。
また、資産管理会社株式会社ディーアイ(大阪市港区所在)は中西氏が代表取締役を務める法人であり、実質的に中西氏個人の資産を運用するための“車両会社(ビークル)”である。
同社は2018年設立、設立当初からブロードエンタープライズ株を主たる資産として保有。
今回の報告でも「発行会社の代表取締役の資産管理会社であり、安定株主として保有」と記載されている。
また、共同保有者として名を連ねる中西美津代氏は同社の取締役であり、中西社長の親族とみられる。
家族・法人・経営者本人の三層構造で形成されたこの株主体制は、典型的な「創業家持株会社連結モデル」といえる。
持株増加の要因
ストックオプションと自社株取得
報告書によると、中西氏は2025年10月20日付で新株予約権10万株をストックオプションとして取得しており、これが直近の持株比率上昇の主因となっている。
さらに、過去5年間にわたり、
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株式分割(1→1,000/1→2倍など)
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ストックオプション行使
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自己株買いおよび安定株主形成策
が断続的に実施されており、資本政策として創業家の影響力を一貫して強化してきたことがうかがえる。
担保提供の記載も注目に値する。
中西氏とディーアイ社は、東海東京証券、西京銀行、みずほ銀行、紀陽銀行など複数の金融機関に対し、合計約219万株を担保として差し入れており、資金調達と持株維持を両立させる「バランス型資本運用」が行われている。
ブロードエンタープライズの事業構造と経営状況
ブロードエンタープライズは、大阪を拠点とする集合住宅向けインターネット設備の開発・提供会社であり、「B-CUBIC」「Broad WiMAX」などを中心に全国展開する。
近年は、通信インフラ事業に加え、
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不動産向けIoTサービス
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クラウドセキュリティ管理
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データセンター事業への参入
を進め、“不動産×通信”を融合したソリューション企業として成長。
2024年10月期の売上は約85億円、営業利益は6億円規模とされる。
上場以降は成長とともに株価変動も大きく、2022年には上場来高値を記録する一方、2023年以降は調整局面に入っていた。
今回の創業家による持株増加は、市場の変動から企業支配を安定化させる狙いがあるとみられる。
視点と論点
経営支配の盤石化
73%超の議決権は、経営権争奪の余地を完全に排除するレベル。今後は中西体制が事実上“終身制”となる可能性もある。
金融担保のリスク
担保差入株が多い点は、株価下落時の証券会社・銀行による追加担保要求(マージンコール)リスクを内包している。
ガバナンスと上場企業としての透明性
創業家の持株が高すぎる場合、社外取締役や少数株主の意見が通りにくくなる懸念もある。
株主還元方針やIR開示の透明性が今後の課題となる。
「創業家の資本支配」は安定か停滞か
中西良祐氏とディーアイ社によるブロードエンタープライズ株の73.08%保有は、創業経営者が上場企業でありながら“オーナー企業としての支配力”を完全に維持した稀有な事例である。
それは経営の一貫性と迅速な意思決定を可能にする一方、外部株主にとってはガバナンスの閉鎖性というリスクでもある。
経営の安定と資本の集中、その狭間で。
ブロードエンタープライズは今、創業者資本主義の極点に立っている。

