
静かなる村上ファンド再び?資本市場が見逃せない構造改革の兆し (変更報告書レビュー|2025年4月9日提出)
はじめに
2025年4月9日、投資会社株式会社レノおよび共同保有者である野村絢氏(Isamu Holdings代表)、エスグラントコーポレーションの3者が、株式会社フジ・メディア・ホールディングス(証券コード:4676)に対する変更報告書(No.4)を提出した。
共同保有比率はついに9.77%に到達し、事実上の“準大株主”として明確なポジションを築いた。
さらに注目すべきは、報告書提出者のひとり、野村絢氏が“村上ファンド創設者・村上世彰氏の長女”であるという事実。
彼女の近年の動きは、“かつての物言う株主”とは異なる“静かに仕掛ける次世代型アクティビスト”として、資本市場での注目度が高まりつつある。
1. 共同保有構造の詳細
提出者 | 保有株数 | 保有比率 |
---|---|---|
株式会社レノ | 100株 | 0.00% |
野村絢 | 20,984,800株 | 8.96% |
エスグラントコーポレーション | 1,897,900株 | 0.81% |
合計 | 22,882,800株 | 9.77% |
- 野村氏単独で8.96%を保有、その大半を市場内外から数日で集中的に取得。
- 株式取得資金は自己資金45億円+信用取引6.6億円程度と推定され、戦略的な資本投下の色が濃い。
2. 買い集めの動き──異例のスピードと意図
- 3月26日:市場外で約423万株(単価2,334円)を一括取得
- 同月末までに、市場内でも960万株以上を断続的に取得
→ 株価への影響を極小化しながら、集中的・戦略的な買い増しを成功させた“手際の良さ”が際立つ。
→ レノを通じて行われたこの買い集めは、「声なき提言」の前哨戦とも見られる。
3. フジ・メディアHD──資産価値は高いが改革は進まず
- 自己資本比率70%超/資産超過企業
- 不動産やコンテンツIPなど豊富な資産を持つが、ROEは常時5%以下
- 株主還元(配当・自社株買い)は一部進んだが、収益構造改革は道半ば
→ 「資本効率に見合わぬ経営体質」こそ、村上ファンド時代から標的とされやすい構図。
→ メディア産業に対して物言う資本が静かに寄ってくるのは、この構造的な“隙”に起因する。
4. 村上ファンドのDNAと“野村絢”という存在
- 野村氏は、村上世彰氏の長女。過去の取材や講演では「父の投資哲学を継ぐ意思」を明言。
- レノやIsamu Holdingsを通じて、国内上場企業に対する積極的なエンゲージメントを展開中
- ただし父と異なり、メディア露出を極力抑え、“静かな資本再編”を志向するスタイルが特徴
→ 今回の報告書提出も、「重要提案なし」だが「助言の可能性あり」という余地を残す設計になっている。
→ 物言わぬ資本=しかし確実に“目を光らせる株主”という新世代アクティビズムの象徴的存在だ。
5. 投資家としての視点──“仕掛け”が起きるとしたら?
- 今回の買い増しで10%の大台が目前に迫る。これは
- 株主提案権の強化
- IRの反応義務の高まり
- 株主総会での存在感が大きくなる
- レノおよび野村氏は、これまでも取締役選任提案・資本政策変更の働きかけを行ってきた実績がある。
- フジ・メディアHDに対しても:
- 非中核事業の売却
- 経営陣の再編
- 自社株買い強化や配当性向の引き上げ
などの提案が想定されるシナリオとなる。
論評社としての視点
今後注目されるのは、レノ・野村・エスグラントの三者が、株主総会でどのような議決権行使を行うか、または株主提案を実際に行ってくるかである。
議決権比率10%に届けば、正式な株主提案権を行使できるため、次の四半期や定時株主総会のタイミングで何らかの動きが出てくる可能性が高い。
フジHDにとっては、単なる大株主ではなく、アクティブな株主を迎えたことになる。今後のIR、資本政策、取締役会の構成変更など、経営の意思決定がどのように変化するか──メディア業界の構造変化の中で、その象徴的な転換点となるかもしれない。
今回のレノ陣営の動きは、単なる投資ではない。
- メディア企業特有の“オーナー不在構造”
- 財務的な“割安放置”
- 株主還元とガバナンスの“進展の遅さ”
といった要素が揃った今、「静かなる資本改革の起爆点」としての意味を持ち始めている。
野村絢氏、すなわち“次世代の村上ファンド”が次にどう動くか──
資本と経営の力学が大きく揺らぐ可能性を、市場は今まさに目撃しつつある。
【関連リンク】 フジ・メディアHD筆頭株主に 村上世彰氏の長女(テレビ東京 WBS) https://www.youtube.com/watch?v=POkcYW0wCss