
売上41%増の裏にある戦略転換のリアル
はじめに
株式会社ラストワンマイル(証券コード:9252/グロース市場)は、2025年2月期中間決算において売上収益74.1億円(前年比+41.6%)、営業利益7.0億円(+155.3%)、最終利益4.3億円(+141.2%)を記録した。連結子会社キャリア、SHCの貢献で売上・利益ともに拡大した一方、2025年3月には非中核子会社PBSを譲渡。
M&Aと事業売却の両面から、事業ポートフォリオの最適化を進める局面にある。
本稿では、業績ハイライト、財務体質、キャッシュフロー構造、競合比較、そして成長戦略の方向性について多角的に分析する。
1. 業績ハイライト(2025年2月期中間)
- 売上収益:74.1億円(前年比+41.6%)
- 営業利益:7.0億円(+155.3%)
- 税引前利益:7.0億円(+160.6%)
- 最終利益:4.3億円(+141.2%)
- EPS:136.08円(前年同期:66.43円)
- 自己資本比率:39.8%(前期末:34.3%)
高収益体制に加え、売上拡大と利益率の両立を達成。M&Aと非中核売却により収益効率も改善。
2. キャッシュフローと財務構造の読み解き
ラストワンマイルのキャッシュフローは、黒字経営を維持しながらも財務体質の改善を志向する構造にある。
- 営業CF:+1.0億円 → 主に税引前利益の積み上げによる正味キャッシュイン
- 投資CF:+1.5億円 → PBS売却による収入が貢献(前年はM&Aで大幅流出)
- 財務CF:▲5.7億円 → 借入返済4.5億円、自己株取得0.8億円
- 現金等期末残高:21.4億円(前期比▲3.8億円)
営業CFは安定黒字を確保。財務CFは成長後のキャッシュアウトフェーズに入り、純資産は増加傾向。投資とリターンのバランスを意識した資本運用がうかがえる。
4. 投資家視点と市場評価──割安株と高ROEのねじれ構造
ラストワンマイルは、収益性の高い成長企業でありながら、株式市場では依然として“バリューゾーン”に置かれている。これは「割安評価と高ROE」がねじれて共存する典型であり、投資家にとっては“機会と課題”が交錯する構造だ。
- 時価総額:約37億円(株価1,120円×発行済株数)
- ROE(年換算):20%超 → 高水準の資本効率
- PER:約8倍 → 成長株としては明確に割安
- PBR:0.9倍 → 純資産との比較でも市場評価は抑制的
高ROEを背景に稼ぐ力は示しているが、IR戦略・中期成長ビジョン・事業の可視化が乏しく、投資家の期待形成が進んでいない。株価は割安だが、説得力ある“未来のストーリー”の提示が求められる。
- 営業CF:+1.0億円(前年同期:+0.7億円)
- 投資CF:+1.5億円(前年同期:▲5.1億円)
- 財務CF:▲5.7億円(前年同期:+6.3億円)
- 現金等期末残高:21.4億円(前期末比▲3.8億円)
財務CFマイナスの主因は借入返済および自己株取得。一方で、投資CFはPBS売却益が寄与してプラスに転換。
3. 事業再編の動向:M&AとPBS売却の構造的意義
M&A
- キャリア社(2023年取得):集合住宅向けISP/コールセンター特化
- SHC(2024年取得):同上業態、のれん1.8億円
子会社売却
- PBSをプレミアムウォーターHDへ譲渡(売却額:約6,600万円)
- 収益貢献が限定的な事業をスリム化、成長領域への集中を図る
「収益効率×成長ポテンシャル」の軸で、事業ポートフォリオを精査し直すフェーズ。
4. 投資家視点と市場評価
- 時価総額:約37億円(株価1,120円×発行済株数)
- ROE(年換算):20%超の高水準
- PER:約8倍、PBR:0.9倍(割安領域)
割安なバリュエーションと高い収益性の組み合わせは“見直し余地のあるミッドキャップ”としての注目材料。成長KPIの可視化が次の評価軸。
5. 成長シナリオ比較と戦略的位置づけ
ラストワンマイルは、ストック収益型の集合住宅向けインフラ事業と、M&Aによる非連続成長戦略を両立させてきた。今後は、取得企業の収益統合効果を高めつつ、BtoC接点やBtoBサービスの深耕による“収益の柱の多角化”が鍵となる。
企業名 | 売上成長率 | 営業利益率 | ROE(推定) | コメント |
---|---|---|---|---|
ラストワンマイル | +41.6% | 約9.5% | 約20% | 高成長×利益率バランス良好、再評価余地あり |
プレミアムウォーター | +7〜10% | 約6% | 15%前後 | 定額モデル安定、シェア維持 |
GMOグローバルサイン | +12% | 約18% | 約10% | SaaS通信モデル、利益率は高いが競争激化 |
USEN-NEXT | +6〜8% | 約11% | 約9% | 法人ISPの老舗、事業多角化で利益分散 |
ストック型ビジネス+M&Aという構造は、スケーラブルかつマージン改善余地も大きく、今後のIR・KPI開示次第で評価反転が見込まれる。
6. 論評社としての視点
ラストワンマイルは、収益規模・成長率・ROEいずれを取っても、グロース市場において“割安なまま取り残されている有望銘柄”の一つである。
PBS売却といった資源配分の再整理を通じて、収益の質を高めながら次なる非連続成長を模索している段階だ。
2025年後半には、M&A統合効果の開示、顧客単価やLTVの可視化、ユーザーリテンション施策などが市場評価の材料になる。
短期IRの深化と中期ロードマップの提示があれば、次のステージへ向けた“再評価の芽”は十分にある。