NIPPON EXPRESSホールディングス

物流の変革を背負う“日本発グローバル・ロジスティクス企業”の現在地(2024年12月期 有価証券報告書レビュー)

はじめに

NX(NIPPON EXPRESS)ホールディングス株式会社(証券コード:9147)は、2024年12月期の有価証券報告書において、売上収益2.57兆円・純利益317億円という堅調な業績を記録した。

一方で営業利益は18.3%減、ROEも3.8%とやや停滞感が漂う決算ではあるが、欧州M&Aやグローバル展開の加速、「Dynamic Growth 2.0」と題した新中計に基づく構造改革の胎動が始まっている。

本稿では、NXグループの財務状況、事業展開、サステナビリティ、人的資本、リスク管理体制など、総合ロジスティクス企業としての現在地を「論評社」の視点で精査する。


1. 財務ハイライト(IFRSベース、連結)

  • 売上収益:2兆5,776億円(前年+15.1%)
  • 営業利益:490億円(▲18.3%)
  • 税引前利益:518億円(▲15.2%)
  • 親会社純利益:317億円(▲14.4%)
  • 自己資本比率:37.2%(前年:37.9%)
  • ROE:3.8%(前年:4.8%)
  • 営業CF:+2,278億円(前年:+1,857億円)
  • 投資CF:▲1,407億円(前年:▲592億円)
  • 財務CF:▲1,641億円(前年:▲1,002億円)

欧州でのM&A(cargo-partner社)などを背景に売上は成長するも、利益率はやや低下傾向。営業CFは引き続き力強く、財務健全性は維持している。


2. セグメント別業績──欧州M&Aと東アジア・南アジアの伸長

  • ロジスティクス日本:売上高1.26兆円、利益405億円(利益▲16.6%)
  • ロジスティクス欧州:売上5,017億円(+160%)、利益112億円(+14%)
  • ロジスティクス東アジア:売上1,739億円(+10.3%)、利益45億円(+20.4%)
  • ロジスティクス南アジア・オセアニア:売上1,576億円(+11.9%)、利益54億円(▲34.5%)

欧州セグメントはcargo-partner社の完全子会社化によって大幅な増収を記録。

中東欧・中東・ASEANなど非日系顧客比率の拡大、ライフサイエンス・産業機械分野での開拓が奏功した。

一方、日本事業は人件費・燃料費・労務費等の高騰を受けて利益が減少。

2024年問題への対応も利益圧迫要因となっており、価格転嫁力と生産性向上が喫緊の課題である。


3. 経営戦略──“Dynamic Growth 2.0”の骨格と進捗

中計「NXグループ経営計画2028」では、

  • 売上収益3兆円
  • 事業利益1,500億円
  • ROE10% を数値目標として掲げ、以下の重点施策を進行中:
  • グローバルアカウントマネジメント体制の強化と重点産業別の戦略展開(テック、ヘルスケア、半導体)
  • M&Aを通じたグローバル拠点拡張(cargo-partner社PMI、インド市場開拓)
  • 日本事業の構造改革(カンパニー制、重量品建設部門再編、営業体制の最適化)
  • 財務KPIにROICを導入し、事業ごとの資本効率を可視化
  • PBR1倍割れ脱却を視野に入れた資本政策(配当性向40%、総還元性向55%)

特に2024年は、日本事業再構築とグローバル戦略の2軸で重要な初動年となった。


4. サステナビリティと人的資本戦略──“ロジスティクス×ESG”の融合

  • Scope1+2 CO₂排出削減目標(2030年▲50%/2050年CN)
  • 女性管理職比率:3.8%(2030年目標10%)
  • 男性育休取得率:46.8%(前年比+12pt)
  • 年次有給休暇取得率:61.2%
  • NXコアエンゲージメントスコア:72P(改善傾向)

さらに、気候変動に関する財務影響のシナリオ分析(1.5℃・4.0℃)を実施し、排出削減コストと収益機会の両面から戦略を立案。

人的資本では、グローバル研修強化・DEI推進・Well-being施策(メンタルヘルス、副業制度等)を一体で推進している。


5. 投資家視点での評価──成長株か、バリュー株か

NXホールディングスは、「事業はグローバル」「利益はまだ国内」という構造を抱えた、成長過渡期のバリュー銘柄と言える。

キャッシュフローは潤沢だが、ROEやROICは資本コストをわずかに上回る水準にとどまる。

  • PBRは依然1倍割れ(0.9倍前後)
  • 配当利回りは2.5〜3.0%で安定
  • 自己株式消却やIR活動強化による市場評価再構築が期待される

今後、PMI進捗や重点産業への集中、非中核事業の整理といった戦略的打ち手が、株主価値にどう反映されるかが評価の分水嶺になる。


論評社としての視点

NXホールディングスは、名実ともに「日本を代表する総合物流企業」から、「世界をつなぐロジスティクス・プラットフォーマー」へ進化しようとしている。

M&Aと地域戦略の再定義、カーボンニュートラルとの整合、そして人的資本による組織の進化──これらが同時並行で進むなか、2025年は資本市場に対してその“成果”をどう見せるかが問われる年だ。

投資家にとっては、ROE・ROICの改善、セグメント間の資本配分、事業ポートフォリオ再編の精度が評価ポイントとなる。

物流を再設計する巨人・NX。その変革はまだ道半ばである。

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