
麻生グループによる買収の全貌と、次に動く資本の行方
2025年5月21日、ASNFホールディングス合同会社(以下、ASNF)が、株式会社ヨータイ(証券コード:5357)の発行済株式のうち6,531,400株(保有比率33.33%)を取得したことが、大量保有報告書により明らかになった。
本件の特徴は、事前に実施された公開買付(TOB)の結果であり、その資金11.8億円超がすべて株式会社麻生(代表:麻生巌氏)からの借入によって賄われたという点にある。
TOBは2025年4月14日から5月14日まで実施され、1株1,810円で成立した。
ASNFとは何者か?──麻生グループの影に包まれた合同会社
ASNFは2023年9月28日に設立されたばかりの合同会社であり、代表社員は株式会社麻生。麻生グループは医療・教育・建設・不動産・資源などを傘下に持つ福岡地盤の多角化企業体である。
今回、同グループが手掛けるM&Aスキームの中核として、ASNFが特別目的会社(SPC)として機能している構図が浮かび上がる。
借入元の株式会社麻生から見れば、ASNFは事実上の“買収ビークル”であり、今後の株式追加取得や、ヨータイとの業務・資本提携深化に向けた足場としての位置付けが明確だ。
ヨータイとは?──耐火物の名門企業
ヨータイは、耐火レンガなどの耐火物を製造する老舗企業であり、鉄鋼・非鉄金属・セメント業界など、極度の高温環境下で使用される構造材の分野で高い技術とシェアを有している。
一方で、国内製造業の設備投資サイクルの変化、資源価格の高騰、為替変動といったマクロ要因に強く影響されるビジネスモデルであるため、外部資本の支援と技術提携が成長戦略のカギとされていた。
3つの注目ポイント
- 買収スキームの構造:ASNFによる買収は、表面上は公開買付だが、実質的には親会社(麻生)による一体化買収であり、資金源も全額内部借入。MBO(経営陣による買収)との違いはあるが、実質的支配力の集中という意味では極めて近い。
- 今後のTOB継続可能性:33.33%という持分は、株主提案や議決権影響力の行使を見据えたマイルドな取得水準であり、今後の株式追加取得や完全子会社化も視野に入っている可能性がある。
- 少数株主の保護と情報開示:麻生グループのガバナンス方針、事業シナジーの中身、将来的な再上場可能性等に関する情報開示が求められる局面にある。
麻生グループは何を見て、ヨータイを取ったのか
本件は、単なるTOBではなく、地域に根ざした老舗企業同士の“戦略的吸収”の始まりである。
麻生グループは、今後の資源価格変動・EV化・インフラ再投資といったテーマにおいて、ヨータイの耐火物技術が果たす役割に目をつけた可能性がある。
投資家としては、この買収が単なるパッシブ保有に終わるのか、それとも次なる資本政策(MBO、再編、合併)への布石かを見極めることが重要となる。