
大和グループとの株式譲渡契約とその含意
2025年5月30日、ヒューリックグループ傘下のヒューリックプロパティソリューション株式会社(以下、HPS)は、アストマックス株式会社(証券コード:7162)の株式1,662,500株(12.63%)を取得し、大量保有報告書を提出した。
この取得は、株式会社大和証券グループ本社が保有していたアストマックス株の市場外譲渡によるものであり、加えて第三者割当による新株発行700,000株(6月12日払込予定)を条件とした株式取得契約も存在している。
一見すると単なる資本提携だが、その構造とスキームからは「選別された中堅金融再編」の一手としての戦略性が見て取れる。
ヒューリックプロパティソリューションとは?
不動産×金融の投資フロンティア
HPSは、2017年設立のヒューリックグループ中核企業であり、不動産投資やアセットマネジメントを軸に、金融・エネルギー・ヘルスケアなど周辺セクターへの事業拡張を進めている。
特に「金融と不動産の中間領域」での成長戦略に注力しており、J-REIT、私募ファンド、PFI(官民連携)など多岐にわたるストラクチャードファイナンスを手掛けている点が特徴だ。
アストマックスとは?
商品ファンドから総合アセットマネジメントへ
アストマックスは、かつて商品先物ファンドで名を馳せた企業であり、現在では投資顧問、電力取引、カーボンオフセット、AI資産運用など、総合アセットマネジメント企業への転換を図っている。
電力・環境領域に強いプレゼンスを持つ一方、収益の安定性やIR開示姿勢については一部課題もあり、近年は資本政策の見直しや事業提携を通じた経営基盤の強化が進められていた。
取得構造と“条件付き執行”の意味
- 市場外で大和証券グループ本社保有株1,662,500株を取得(取得単価:223円)
- 6月12日予定で第三者割当増資による700,000株の自己株式処分を取得条件に設定
- 株主総会において取締役選任議案提出があれば、大和証券はHPSの意向に従い議決権を行使する契約付き
このスキームは、いわゆる「段階取得+影響力行使前提型M&A」の初期フェーズに類似しており、MBOやTOBを伴わない“支配下に置く投資”の典型例と言える。
今後の注視ポイント
- 6月12日の第三者割当増資の成立と持分比率の変動(20%前後へ)
- 新たな取締役体制への変更の有無(HPS側人材の登用)
- アストマックスのIR・財務開示方針の刷新
- カーボン市場やエネルギー取引分野での協業展開
“戦略的資本提携”の仮面をかぶった、準再編プロセス
HPSによるアストマックス株の取得と第三者割当契約は、単なる金融投資や提携ではなく、極めて高い「統制志向」と「再編誘導力」を内包する一手である。
いま、J-REITやアセットマネジメントセクターにおける“第2の再編フェーズ”が水面下で始まっている。その先駆けが、本件である可能性を見過ごすべきではない。