環境HDの第三者割当増資で12億円を得た外資系ファンド

RIHUAXINGが突きつけた、日本株式市場“合法支配”の構造

静かに現れた支配者

RIHUAXINGと環境フレンドリーホールディングス

2025年7月23日、一通の大量保有報告書が関東財務局に提出された。

その報告書が指し示していたのは、環境フレンドリーホールディングス(証券コード:3777)という銘柄と、そこに6.46%の株式を保有するに至った一法人の存在──RIHUAXING INVESTMENT LIMITED。

RIHUAXINGは英領バージン諸島に登記された法人で、国内にオフィスを持たないいわば“匿名性の高い海外投資家”である。

設立は2017年、代表者はChen Bin(チェン・ビン)と記されているが、その人物像は謎に包まれている。

だがこの報告書の最も衝撃的な点は、保有手段にある。

RIHUAXINGは、2025年5月に発行された第三者割当による新株予約権を通じて、1株あたり0.61円という異例の低価格で、2,000万株分の株式を取得していた。

その時点での株価はおおよそ64円前後。

つまり、取得価格との乖離は実に99%近いディスカウント

そしてその取得に要した資金は、わずか1,220万円程度──それが、当時の時価換算で12億円超の評価額となり、RIHUAXINGは“静かに、しかし確実に”、上場企業の主要株主の座を獲得した。

この出来事は単なる財務的成功の話ではない。

これは、日本の株式市場が抱える制度上の盲点──第三者割当の自由度と規制の緩さ──を最大限に活用した、“合法的支配”の実例なのだ。

この記事では、RIHUAXINGが用いた資本政策の構造を解剖し、なぜこのようなスキームが実現可能だったのかを、制度・ガバナンス・投資の観点から紐解いていく。

0.61円という行使価額の意味

異常な割当価格の背景を探る

RIHUAXINGが取得した新株予約権の行使価額は0.61円──この数字が本件最大の焦点であり、日本市場の制度的な脆さを象徴する起点でもある。

一般的に、新株予約権の行使価額は、市場価格と一定の連動性を持たせることで、既存株主の持分希薄化や不公平な割当への批判を和らげる役割を果たす。

だが、環境フレンドリーホールディングス(以下、EFH社)は、明確な根拠を示さないまま、この桁違いに安い価格での割当を実施した。

0.61円という水準は、株式の実質的価値というよりも、“権利を与えることそれ自体”を目的とした水準に近い。

株価が60円を超える中で、1/100以下の水準で予約権を設計するという判断には、市場慣行や株主保護の視点がほぼ反映されていないと言ってよい。

これは偶然ではない。

EFH社はこれまでも、割安な価格での第三者割当やMSワラント発行を繰り返してきた経緯があり、資金調達の柔軟性を優先し、既存株主の価値希薄化を容認する体質を市場に対して明確に示してきた。

このような企業文化の下では、発行価格の“異常性”も、制度の“緩さ”も、すべてが合理化される。

割当先にとっては、法令違反リスクを取ることなく、制度の中で最大限のリターンを得られる絶好の機会となる。

RIHUAXINGが動いた理由は明白だ。彼らはこの“設計された割当価格”に対し、資本としての優位性を嗅ぎ取り、わずか1,220万円の出資で12億円超の含み益を生み出すスキームを、合法的に確立させたのである。

利益はどれだけ?

0.61円が64円に化けた「約105倍」の構図

今回の件で最も注目すべきは、RIHUAXINGが得たリターンの異常な大きさだ。

金額でいえば1,220万円の投資が、わずか数週間で12億円超の時価評価額となっている。

この計算は以下のとおりである。

  • 取得株数:2,000万株
  • 行使価額:0.61円 → 合計取得原価=1,220万円
  • 現在株価:約64円 → 評価額=約12億8,000万円
  • 含み益=12億6,800万円超

つまり、投下資本比率で見ると1万%を超えるリターンであり、これは通常の資本市場では見られない、異常な利益構造だ。

しかもそれは市場のタイミングやトレーディングによるものではなく、制度の中に組み込まれた設計利益だった。

こうした構造は、株主の権利を保護するという上場制度の原則とは逆行する。

一般の株主がマーケットで取得する価格の100分の1という価格で、制度上の“優先的地位”が与えられていることになる。

さらに、この利益が「含み益」で終わらず、流動性のある市場で徐々に売却されれば、実現益として資本回収が可能となる。

IRも沈黙、株主総会の決議も不要、形式的に合法──この静けさこそが、制度支配の本質である。

RIHUAXINGは単なる投資家ではない。「資本の設計図」に従って動く、“支配の設計者”だったといえる。

制度として何が許されているのか?

第三者割当と規制の境界線

RIHUAXINGのケースが合法であるという事実に、多くの投資家は違和感を抱く。

だが、日本の制度はこの行使価格でも第三者割当が成立することを“明示的に許容”している

新株予約権や第三者割当増資は、資金調達手段として広く認められている。

一方で、企業価値を毀損しないようにするため、金融商品取引法や会社法ではいくつかの“歯止め”が設けられている。

しかし、その実態はこうだ。

  • 発行価格が著しく低廉でも、株主総会の特別決議は原則不要(一定の自己株取得比率や既存株主影響がなければ)
  • 第三者の割当先が企業と利害関係にあっても、取締役会決議だけで進行可能
  • 金融庁や東証も「形式的な開示義務」を求めるにとどまり、実質的な介入は行われない

つまり、企業と発行先が合意し、最低限のルールを守っていれば“割当設計は事実上フリーハンド”なのが現行制度である。

本来、制度が許容しているのは「信頼関係に基づく資本連携」だったはずだが、そこには価格の妥当性や市場との整合性が必要とされるべきだった。

しかし現実には、その“倫理的期待”を明文化したルールは存在せず、発行体の裁量が優越する構造が放置されてきた

この構造が、RIHUAXINGのような“ノンネーム外資”による、戦略的かつ静的な支配を制度内で成立させてしまった。責任は彼らではない。制度の側にあるのだ。

ターゲット化される上場企業の条件

RIHUAXINGによる環境フレンドリーホールディングスの支配は、たまたま起きた事象ではない。

日本の株式市場には、同様のスキームが“繰り返し適用可能”な構造が存在している。

では、どのような企業が次のターゲットになりやすいのか。以下の条件を備えた企業は、特に注意が必要だ。

  • 資本政策が恒常的に乱れている企業(MSワラントや第三者割当を繰り返している)
  • 継続企業の前提に注記がつくレベルの資金不足状態
  • 市場からの注目度が低く、株主構成が分散しすぎている銘柄
  • IRやガバナンスに対して受け身な企業風土

特に、グロース市場やスタンダード市場に上場する中小型銘柄は、資本の受け入れ先としての柔軟性が高く、価格設計に対しても慎重さを欠く傾向がある。

そこへ、RIHUAXINGのような“制度を読める資本”が入り込む余地が生まれる。

さらに、こうした企業の多くは「外資が入ること」自体を歓迎するケースも多く、内部的な緊張感が不足している。

その結果、資本と支配の境界線があいまいなまま、影響力が移動してしまうのである。

これは、日本企業の資本防衛意識の希薄さと制度設計上の“自己責任原則”が複合した結果でもある。

ターゲット化される企業に共通するのは、“資本の価格を自らコントロールできないこと”だ。

つまり、支配される側の共通項は「資本政策が市場の倫理に甘えている」という点に集約される。

制度の内側で成立する“静かな支配”

日本市場が直面する本質的な問い

RIHUAXINGの事例は、単なる一過性の資本取引ではない。

そこにあるのは、制度が制度として機能しているがゆえに生まれた“支配の正当化”であり、その背後には、日本の上場企業がいまだ抱え続ける構造的な問題がある。

制度を悪用したのではない。制度を活用したのだ。だからこそ、この支配は静かに成立した。

既存の株主は気づかない。取引所も介入しない。企業は現金を得て満足し、ファンドは非対立的に影響力を持つ。

だが、このスキームは、企業統治の倫理や株主構成の透明性を根本から揺さぶるものでもある。

上場とは、誰でも投資できるという開放性と同時に、誰にでも支配されうるという脆さを内包している。

資本政策の裏側を読まなければ、本質的な支配構造は見えない。

この事件を“異常”と片付けるのではなく、「なぜ成立したのか」「次に同じ構造が再現されるとしたら、自分の投資先はどうか」と問い直すことこそが、真の防衛手段である。

RIHUAXINGは、すでに次の企業を見ているかもしれない。


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