
商社と製造の間で揺れる“複合型ビジネス”のリスクと再構築
企業概要:商社×プリフォーム製造の“二重構造企業”
アルテック株式会社(ALTECH CO., LTD.)は、東京都中央区に本社を構える、東証スタンダード上場のハイブリッド型商社・製造企業である。
国内外の食品加工・環境・化学系設備を取り扱う「商社事業」と、飲料用PET容器向けのプリフォームを自社製造する「プリフォーム事業」という、性質の異なる2事業を柱にしている。
両事業は事業モデルも収益構造も異なる。商社事業は高い収益性と安定したフローを提供する一方、プリフォーム事業は資本集約的で、設備投資・減価償却・原材料価格の影響を大きく受ける。
そのため、アルテックは景気変動と資源価格の両方に敏感な“複層的リスク構造”を持つ企業体である。
財務サマリー:売上2桁減、営業赤字拡大も“最終黒字”を確保
指標 | 2024年中間期 | 2025年中間期 | 増減 |
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売上高 | 9,235百万円 | 8,121百万円 | ▲12.1% |
営業損失 | ▲9百万円 | ▲99百万円 | 赤字拡大 |
経常損失 | ▲1百万円 | ▲133百万円 | 赤字拡大 |
親会社株主純利益 | 71百万円 | 52百万円 | ▲19百万(黒字維持) |
営業CF | +498百万円 | +815百万円 | 大幅改善 |
自己資本比率 | 49.1% | 60.5% | +11.4pt |
注目すべきは、営業・経常ともに赤字が拡大する一方で、親会社純利益は黒字を維持している点である。
これは、資産売却益(16百万円)および法人税調整益(145百万円)など一時要因による利益計上が主因であり、「営業赤字でも黒字決算に見せる」バランス感覚の妙が光る。
セグメント分析:商社が稼ぎ、プリフォームが沈む
アルテックの2事業の構造は極めて対照的である。
● 商社事業(売上:4,371百万円/利益:350百万円)
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売上は前年同期比▲5.6%と減少したが、セグメント利益は黒字を維持(前年:428百万円)
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大型案件の一部検収遅延と、前期のハイブリッド会議システム商権の反動減が影響
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それでも収益力は高く、安定した利益源としての地位は変わらない
● プリフォーム事業(売上:3,799百万円/損失:▲338百万円)
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飲料向けPETプリフォームの需要減と価格競争で大幅減収(前年▲17.7%)
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再生ペレット・再生フレーク関連ビジネスも採算化に至らず
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設備減価償却や人件費の固定費負担が重く、赤字が拡大中
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両事業を比較すれば、明確に商社が稼ぎ、製造が足を引っ張る構図である。プリフォーム事業を続ける合理性が、問われるフェーズに差し掛かっている。
財務とキャッシュフロー:赤字でも、財務体力は強化されている
アルテックの中間財務には、興味深いコントラストがある。
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総資産:18,598百万円(前年▲894百万円)
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自己資本比率:60.5% → 過去最高水準に
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現金残高:4,627百万円(+583百万円)
営業キャッシュフローは+815百万円と前年を大きく上回っており、これは主に棚卸資産減少(▲534百万円)と売掛金回収(▲338百万円)によるもので、キャッシュ管理の巧妙さが見て取れる。
さらに、固定資産の売却(398百万円)によって投資CFもプラスとなり、財務CFでの返済・配当支払い(▲309百万円)を含めても現預金は積み上がっている。
▶ 赤字であっても、キャッシュは増えている。ここにアルテックのしたたかさがある。
資本政策と株主構造:「目立たず浮上する」東証スタンダードの優良例か
アルテックは、成長株でも再建株でもない。だが、特筆すべきは財務の健全性と株主構成の安定感である。
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自己資本比率:60.5%
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自己株式保有率:9.13%(1,383,500株)
- 最大株主:日本証券金融(7.62%)、立花証券、MUFGなど
いずれも金融機関・事業法人による安定保有が多く、急激な株価変動や敵対的買収の懸念が小さい。また、ストックオプション等も発行されておらず、希薄化懸念も皆無である。
事業としては地味かもしれないが、「減資もせずに利益を出し、財務も整える」ことに成功している上場中堅企業という意味では、株式市場における「守りの優良銘柄」として再評価の余地がある。
プリフォーム事業は“構造改革”を迫られている
今期のアルテックは、「表面赤字、中身は黒字」という奇妙な構図で幕を開けた。
確かに利益は出た。だが、これは税効果と一時益の合算であり、本業の収益性は極めて厳しい。
とくにプリフォーム事業は、減収・赤字・固定費負担の三重苦に直面しており、今後は以下の決断が迫られる。
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① 再生素材系(サーキュラーエコノミー領域)の明確な収益計画
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② 高コスト設備の減損・統廃合
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③ 商社部門とのシナジーの明確化
今期中にこれらの方向性が打ち出されなければ、商社部門の稼ぎでプリフォームの赤字を支える“寄生構造”が常態化するリスクが高まる。
この企業は、“儲かる道”を知っている。ただ、“選ぶ覚悟”が問われている。
アルテックは、地味で控えめだが、キャッシュを稼ぎ、自己資本を積み上げている企業である。
事業の内訳を精査すれば、商社事業は十分に競争力があり、プリフォーム事業さえ整理すれば、さらなる株主価値の創出は十分に可能だ。
この企業に必要なのは、「何をやるか」ではなく、「何をやめるか」を選ぶ勇気だ。
そしてそれは、成長よりも、“価値の守り方”が問われる東証スタンダード銘柄の核心的命題である。