【決算分析】カブ&ピース(第2期・中間)

“株主になる生活”という実験、インフラ事業の裾野とリスク構造を読む

「株主になる」を仕組みにした生活インフラ企業

株式会社カブ&ピース(代表:前澤友作)は、2024年2月設立の新興企業。

理念は「目指せ、国民総株主」。生活インフラ(電気・ガス・通信など)を利用することで“株をもらえる”という仕組みを構築し、生活と投資を一体化するビジネスモデルを掲げる。

同社が展開するのは、以下のような「KABU&」ブランドのサービス群だ。

  • KABU&でんき/ガス/モバイル/ひかり/ウォーター/ふるさと納税/カード/プラス

  • それぞれの利用額や契約に応じて“株引換券”が発行され、ユーザーはこれを「カブアンド種類株式」へ交換できる。

この「株引換」スキームこそ同社最大の特徴であり、利用者=株主=生活者という新しい株式経済圏の形成を志向している。

決算ハイライト(第2期中間:2025年2月〜7月)

指標 前期(2024/2〜2025/1) 当期中間(2025/2〜7) 増減・評価
売上高 1,324百万円 3,378百万円 +155%
営業損失 ▲1,977百万円 ▲1,121百万円 改善
経常損失 ▲1,977百万円 ▲1,104百万円 改善
純損失 ▲1,805百万円 ▲1,036百万円 改善
総資産 3,886百万円 5,235百万円 +34.6%
自己資本比率 30.8% 27.1% 低下
現金同等物期末残高 1,199百万円 1,030百万円 ▲169百万円

→ 売上は急拡大したが、依然として営業赤字1.1億円規模。サービス拡張に伴う外注費・システム開発費が利益を圧迫している。

事業構造とサービス別の状況

2024年11月に「KABU&でんき」など主要サービスをリリース、2025年4月に「KABU&カード」を開始。7月末時点で総利用者は約97万人(延べ)、累計利用金額は約24.7億円に達した。

サービス 利用者数(千人) 利用金額(千円) 売上高(千円)
KABU&モバイル 82 1,414,547 1,163,864
KABU&ひかり 14 380,461 446,545
KABU&ふるさと納税 222 5,129,729 262,986
KABU&プラス 290 796,087 796,087
その他サービス合計 361 16,976,766 709,009
合計 969 24,693,590 3,378,491

通信・光回線・寄付連携など「消費に直結する分野」で成長が目立つ。

一方、インフラ系(でんき・ガス)は提携企業に依存し、手数料収入が中心のため粗利は限定的

キャッシュフローと財務の動き

  • 営業CF▲380百万円:税引前損失1,103百万円、売掛金増912百万円などで流出。一方で株引換券負債増加(+752百万円)が一部相殺。

  • 投資CF▲1,185百万円:主に**ソフトウェア開発費(約11.8億円)**の資本化。

  • 財務CF+1,396百万円:株式発行収入1,253百万円、借入1,400百万円で資金補填。

事業拡大とともにシステム投資・外注費を前倒しする一方、代表者融資・第三者割当増資で資金を確保している構図が浮かぶ。

資本構成とガバナンス

2025年7月末時点の発行済株式数は約34.2億株(普通株30億株、カブアンド種類株4.19億株)。

普通株の議決権は前澤友作氏とその関係会社で100%保有

  • 前澤氏:61.4%

  • 前澤ファンド:17.6%

  • グーニーズ:8.8%
    実質支配率約87.8%。議決権ベースでは完全支配構造(100%)であり、上場準備期としては典型的なオーナー企業体制である。

また、社員へのストックオプション1.5億株超を発行(行使価額3円、2040年満期)。

上場承認を条件に行使可能とされ、報酬インセンティブとして設計されている。

分析と論点

1. 売上構造の実態

売上3.3億円のうち、KABU&モバイル・ひかり・プラスの3分野で全体の7割を占める。
現時点では「金融×通信×地域還元」の多角化を進めるが、各事業は提携会社依存度が高く、自立収益力は限定的

2. 投資フェーズとしての体質

営業損失1.1億円の主因はシステム開発費(約10億円)とキャンペーン費(株引換券引当金約6億円)
つまり赤字の性質は「成長投資型」であり、黒字化よりも利用者拡大とエンゲージメント形成を優先している。

3. ガバナンス・資本政策

オーナー支配が強く、意思決定のスピードは速いが、外部株主との対話性・透明性が次のフェーズの課題となる。
特に将来的な上場を見据えるなら、議決権の分散化・独立社外取締役の機能強化が不可欠。

“国民総株主”モデルの挑戦と試練

カブ&ピースは、単なるインフラ事業者ではなく「株式を介した新しい経済圏の構築」を狙う異色の企業だ。

だが、実態はまだ広告型+手数料収益の集合体に過ぎず、財務的には投資フェーズの真っただ中にある。

投資家目線で見れば、今後注目すべきは

  • 利用者増とARPU(1人当たり売上)の持続性

  • 株引換券の償却・負債化の処理リスク

  • ソフトウェア資産の減損リスク(1.7億円→1.9億円へ急増)

  • オーナー資本構成の健全性

理念は先鋭的だが、経営構造は脆弱。

“国民総株主”という理想を現実に変えるには、生活インフラ企業としての安定収益の確立が避けて通れない道となる。

おすすめの記事