
本社移転を控えた戦略的上期決算を読む(2025年2月期 半期報告書レビュー)
はじめに
ウォンテッドリー株式会社(証券コード:未記載/東証グロース上場)は2025年2月期の半期報告書を提出し、営業収益24.8億円(前年比+6.4%)、営業利益9.2億円(+23.9%)、純利益5.8億円(+29.2%)と2桁増益を記録した。
登録企業ユーザー数は4.2万社、登録個人ユーザー数は420万人へと増加し、採用・働き方領域の“ビジネスSNS”としてのプラットフォーム価値が高まりつつある。
一方で、2026年3月の本社移転を控え、移転補償金(+8億円)と関連費用(▲5,500万円)が特別損益に反映された点も特徴的であり、中間期ながらも財務・戦略両面での転換点となった。
1. 財務ハイライト(2025年2月期 中間)
- 営業収益:24.8億円(前年比+6.4%)
- 営業利益:9.2億円(+23.9%)
- 経常利益:9.1億円(+24.3%)
- 親会社純利益:5.8億円(+29.2%)
- 自己資本比率:66.7%(前期末:75.8%)
- 営業CF:+15.3億円(前年同期:+4.2億円)
- 現金残高:57.1億円(期首比+11.9億円)
売上のストック型比率は8割超に達し、ストック収益(21.2億円)が着実に増加。キャッシュ創出力が加速したことで、移転資金の確保や資産増に寄与している。
2. ビジネスSNSとしてのプロダクト基盤
ウォンテッドリーは、ストック収益(基本プラン利用料)とフロー収益(スカウトオプション等)に分解されるマルチモデルで、営業収益の80%以上をサブスクリプションベースで構築している。
- ストック収益:21.2億円(+8.0%)
- フロー収益:3.6億円(▲2.0%)
UX改善・アルゴリズム精度の向上により、採用マッチング率が上昇。企業ページ閲覧・応募数の改善とあわせ、プロダクトの“粘着度”が高まっている。
また、地方企業や中小企業での導入も増加しており、ビジネスSNSとしての定着度が拡大中。
3. 特別損益と本社移転計画
- 特別利益:解約返戻金+7,388万円
- 特別損失:本社移転関連費用▲5,564万円
2024年10月に本社ビルの契約を解約、移転先不動産を確保。2026年3月の移転予定に向けて、一時的なキャッシュインと費用が先行計上された。
オフィス戦略の見直しとフレキシブルワークへの再設計は、組織文化と生産性向上に資する可能性がある。エンゲージメントやeNPSの改善施策と連動できるかが焦点。
4. 財務構造と資金流動性
- 流動資産:61.1億円(+11.4億円)
- 固定資産:4.7億円(+1.6億円)
- 負債合計:21.7億円(前期末:12.6億円)
- 純資産:44億円(+4億円)
増加した負債の大半は長期前受金(+8億円)であり、これは移転補償金を受け取った側としての処理。
実質的な借入やレバレッジ拡大はなく、無借金経営は維持されている。
5. 競合比較・IR戦略・生成AI活用の将来性
競合比較(スモールビジネスHR系 SaaS)
企業名 | 売上高成長率 | ROE | ストック比率 | コメント |
---|---|---|---|---|
ウォンテッドリー | +6.4% | 約26%(推定) | 約85% | ビジネスSNS型、採用×カルチャー |
HERP | +30%以上(推定) | 非開示 | SaaS型比率高 | 採用管理SaaSに特化、導入企業増加中 |
Talentio | 非開示 | 非開示 | 不明 | 中小企業向けに強み、上場準備中との噂 |
ウォンテッドリーは、HR×SNSの独自ポジションと自社メディア的要素を併せ持つ点で、採用特化SaaSとは異なる評価軸が求められる。
IR戦略の現状と課題
- IR資料の開示頻度は適切だが、KPI(DAU、スカウト率、マッチング率等)の定量開示は限定的
- ESGやDEI情報は開示されているが、投資家向けIR説明会の実施状況・Q&A開示は少ない
SaaS型企業においては、ARR(年間経常収益)、NRR(継続率)、CAC(顧客獲得コスト)など、業界標準指標の開示が期待される。今後のIR拡充が望まれる。
AI戦略とプロダクト進化
- 採用候補者推薦における生成AI統合(GPT API利用)のパイロットが社内で進行中
- 採用文書生成、インサイト解析(転職意欲スコア等)へのAI活用も検討
- 他社SaaS(ATS、労務、給与など)とのAPI連携でプロダクト横断性が向上する見通し
AI統合は、今後のスカウト精度・求人マッチングレベルを一変させ得る要素。開発スピードとユーザー定着率の両立がカギとなる。
6. 投資家視点での評価
- 1株利益(EPS):60.93円(前年同期:47.17円)
- ROE:年換算で約26.3%と想定(中間期での純利益ベース)
- 自己資本比率66.7%、配当20円を継続(配当性向未公表)
- キャッシュリッチ体質を背景に、今後の自社株買いor成長投資が焦点に
営業利益率36.9%という高収益性に加え、オーガニック成長によるキャッシュ創出が続く限り、株主還元強化(増配・IR拡充)と併せて「堅実グロース」銘柄として注目され続ける可能性が高い。
論評社としての視点
ウォンテッドリーは、職業観の多様化、採用プロセスの透明化、雇用の双方向化といった構造的変化の中で、その存在感を拡大してきた。採用×SNSという独自の文脈を持つプラットフォームは、単なる求人サービスにとどまらず、“企業文化を見せる場”としての意味合いを強めている。
2025年、キャッシュフロー体質の進化と、プロダクトの次なる深化(AI統合、IR高度化)により、グロース市場における代表銘柄へのステップアップが期待される。