
企業概要
株式会社タイミーは、「働きたい時間」と「人手が欲しい時間」をマッチングする即時雇用プラットフォーム「Timee(タイミー)」を運営する、国内リードのHRテック・スタートアップである。
設立は2017年。小売・飲食・物流・軽作業など人手不足の現場に向けて、スキル・経験不要・即日勤務可能なアルバイト人材を提供し、急成長を遂げてきた。
「面接なし・履歴書なし・即日報酬」という圧倒的UXを武器に、登録ワーカー数は540万人超、導入企業は累計8万社以上にのぼる。
2023年9月には、ソフトバンク・ゴールドマン・三井住友などからのシリーズD資金調達により企業評価額は1,000億円を超え、“プレユニコーン”として注目される存在となっている。
財務サマリー(第6期)
指標 | 金額 | 前期比/備考 |
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売上高 | 15,655百万円 | +53.1% 増収(過去最高) |
営業損失 | ▲2,791百万円 | 赤字継続(前年▲1,915百万円) |
経常損失 | ▲2,850百万円 | 赤字拡大(広告費・人件費が主因) |
当期純損失 | ▲2,906百万円 | 赤字拡大(3期連続) |
営業CF | ▲930百万円 | 赤字だが前期比で+771百万円の改善 |
投資CF | ▲507百万円 | 自社開発投資中心に支出継続 |
財務CF | +8,159百万円 | 資金調達(シリーズD)による純増 |
現預金 | 9,787百万円 | 前期末比+5,575百万円(潤沢) |
自己資本比率 | 59.0% | 財務安定性を維持 |
タイミーの売上はなぜここまで急成長したのか?
マッチング数と業種拡大の要因を解剖
タイミーの2024年度(第6期)における売上は、前年比+53%の156.5億円と過去最高を記録した。
この急成長の理由は、単に「ニーズがあったから」だけではない。
即時雇用という業態の特異性と、アプリUXの優位性、そして営業・導入チームの拡充が三位一体で成果を生んだからである。
実際に、登録ワーカー数は540万人を超え、2023年比で約+100万人規模の増加。
加えて、導入企業は8万社超へと拡大しており、小売・飲食・物流など“人手不足に直面する業種”に特化した営業戦略が奏功している。
中でも物流(特に倉庫内作業)、飲食(ピーク時間帯シフト)、小売(レジ要員・棚出し)の3業種が全体の7割近くを占める構造となっており、タイミーは「単価が低く、需要が継続する市場」を最初から見抜いてプロダクト設計を行った点が光る。
またSEO的観点から言えば、「即日バイト」「スキマバイト」「履歴書なしで働ける」「日雇い アプリ」といった検索キーワードでのSEO流入も増加傾向にあり、検索連動型のコンテンツSEOをオウンドメディア(タイミーマガジン)と連動して戦略的に運用していることも成長ドライバーのひとつだ。
ただし、こうした“SEO+広告+プロダクト”の三層構造は、規模が拡大するほどLTV維持の難易度が上がる構造でもある。
定着率の高いユーザー(リピーター)と、CPAの高い新規流入とのバランス管理が今後のテーマとなるだろう。
販管費構造
赤字の大半は「人」と「広告」
費用内訳 | 金額 | 前年比 | コメント |
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人件費 | 約5,500百万円 | 約2倍 | 従業員数:前期比+200名超(合計で約500名) |
広告宣伝費 | 約3,500百万円 | 横ばい | TVCM、交通広告、SNS、オウンドメディア強化 |
その他販管費 | 約4,500百万円 | +約1,000百万円 | オフィス費用・SaaS・採用活動費など |
➡ 売上の成長にほぼ比例して販管費が膨張。“営業レバレッジが効いていない”のが最大の課題。
キャッシュフロー構造
営業赤字でも「資金繰りの安心感」
営業CF(▲930百万円):
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税前損失は大きいが、減価償却(210百万円)+前受金増(+540百万円)+債権回収で部分的に補完
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有料企業の前払いプランにより、CF構造は一定の安心感あり
投資CF(▲507百万円):
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自社開発ソフトウェア:350百万円
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サーバ・設備等:60百万円
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のれん・M&Aはなし(完全オーガニック成長)
財務CF(+8,159百万円):
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シリーズDラウンドによるエクイティ資金調達
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希薄化を受け入れて成長優先の資本政策を継続中
資金は潤沢/ただし資金消費モデルが変わらなければ、次回調達依存は継続する
タイミーの赤字はいつ止まるのか?
人件費・広告費構造から黒字化への道筋を探る
「売上は伸びているのに、なぜ赤字なのか?」──
これは多くの投資家・業界関係者がタイミーに抱く疑問だ。第6期においても、営業損失は▲27.9億円、純損失は▲29.0億円と3期連続の赤字決算となった。
最大の要因は、人件費と広告費に代表される固定的な販管費の膨張である。
特に人件費は前年比約2倍の55億円超に達しており、これは急速な組織拡張と新規事業開発(例えばタイミーキャリア、法人管理SaaS機能)による人材投資が重なった結果といえる。
広告宣伝費についても、テレビCM・交通広告・Web広告に数十億円規模を投下し続けているが、コンバージョン単価(CPA)の上昇が見られ、効率は横ばいまたはやや悪化している可能性が高い。
さらにSEOの観点からも、競合(例:シェアフル、クラウドワークス、ランサーズ)との自然検索トラフィックの競争が激化しており、「検索コストがじわじわ上がっている」局面に突入している。
黒字化への道筋は、次の3点にかかっている。
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ARPU(1ワーカー当たり売上)をどう引き上げるか
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マッチング単価の利幅をどう確保するか(法人側手数料率を調整)
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人件費の増加率を売上成長率以下に抑えられるか
この3つをいずれもクリアできなければ、「赤字であることが戦略」と言い続けるには限界が来る。
IPO市場においても、近年は「黒字化の見込みが明確であるか」が上場審査基準で厳しく見られる傾向がある。
タイミーの“ユニコーン期待値”が正当化されるには、次の決算で「営業利益の黒字転換ストーリー」が見えることが、必須条件となるだろう。
この赤字は「未来の布石」か、それとも「ビジネスモデルの限界」か
株式会社タイミーは、明らかに“市場の期待を背負った存在”だ。
だが、その背中にはいくつもの“構造リスク”が貼り付いている。
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ユーザー単価が上がらない中での人件費膨張
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アプリUXでは勝っていても、LTV構造が確立していない
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組織化・CS強化・営業支援の強化により、SaaSではなく“人材派遣に近いコスト構造”に向かっている
この成長は、「即日雇用革命」の先にある新しい労働の形なのか──
それとも、VCマネーで膨らんだ構造赤字の“時限モデル”なのか。
次の決算で必要なのは、「黒字の兆し」ではなく、「利益構造の確立」だ。