エフィッシモ、再び動く

太平洋工業への5.54%出資に見るアクティビストの視線

シンガポール発・静かなる支配者の輪郭

エフィッシモ・キャピタル・マネージメント(Effissimo Capital Management Pte Ltd)は、企業統治改革を目的とする“提案型アクティビスト”として日本市場で異彩を放ち続けてきた。

村上世彰氏の影響を色濃く受け継ぐ形で、かつては東京ドーム、東芝、昭文社などで経営陣への改革圧力を強めてきた実績を持つ。

この静かな戦略家が、新たなターゲットに選んだのが、自動車部品・空調・産業機械分野を手がける「太平洋工業株式会社」である。

5.54%

じわりと株式を買い増した構造

報告書によれば、2025年8月27日時点で3,393,800株(5.54%)を保有。保有目的としては、明確にこう記されている。

「投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為等を行うこと」

これは単なる資産運用目的の外資とは異なり、“経営参画の可能性”を正面から認めた保有目的である点が注目に値する。

買い増しの痕跡

8月の市場で何が起きたのか?

報告書には、過去60日間の取得履歴も詳細に記載されている。

これを見ると、エフィッシモは2025年8月5日~27日のわずか3週間で17回に分けて市場内買付を行っていた。

▍取得の累積(一部抜粋)

日付 株数 割合 単価
8/5 179,400株 0.29% 市場内取得
8/22 586,500株 0.96% 市場内取得
8/27 390,000株 0.64% 市場内取得
累計 3,393,800株 5.54% -

日を追うごとに取得株数を増加させており、明確な意図を持った買い進め戦略が読み取れる。

なぜ「太平洋工業」なのか?

エフィッシモが見る構造的未活用領域

▍① PBR・ROE水準の割安性と市場評価ギャップ

太平洋工業は、自動車用バルブ・空調部品で世界シェアを持つ一方、PBRは1倍未満の水準に沈み続けている

エフィッシモにとっては、資本効率改善提案(配当引き上げ・自社株買い等)を訴える格好の対象となる。

▍② 脱ファミリー経営の圧力構造

筆頭株主にはファミリー系と見られる持株会社が存在するが、近年では事業承継・IR不透明性などが外部から指摘される場面もあり、エフィッシモとしては「ガバナンス改革」の余地を見出している可能性がある。

▍③ TPP・北米事業拡大と見えない成長資産の掘り起こし

太平洋工業は海外売上比率が高く、北米・アジアに製造拠点を複数展開。特に自動車電動化の波に乗る形で、まだ市場が正しく評価しきれていない“資産的バリュー”が眠っていると見なされているのではないか。

借株・プライムブローカレッジとの関係性

報告書の最後には、次のような一文が明記されている。

「ゴールドマン・サックス・インターナショナルとの間で、プライムブローカレッジ契約により提出者の保管資産に担保権を設定している」

つまり、株式を借入・貸付可能な状態に置きつつ、柔軟な売買やヘッジも視野に入れた立ち回りを行っていることがわかる。これは単なる“ガチ保有”とは異なる、アクティブかつ戦略的な立ち位置であることを示唆する。

エフィッシモが提案するとき

今後の可能性

今後、以下のような動きが起こる可能性がある:

  1. 定時株主総会での株主提案(取締役選任、配当方針の変更など)

  2. IR活動の透明化要求(開示姿勢の強化、統合報告書の発行など)

  3. 資本効率改善要求(PBR改善、ROIC指標導入など)

  4. 敵対的買収防衛策の廃止要求や買収防衛策の再設計

とくに注視すべきは、今後の対話姿勢を通じて太平洋工業側がどのような反応を見せるかである。

エフィッシモは「無風では動かない」

今回の5.54%の保有は、エフィッシモが「本格的に動く」兆候と見ていい。

彼らは単なる保有者ではなく、沈黙ののち、確実に“改革提案”を打ち出してくる投資家である。

「企業価値の最大化」は経営者の言葉であり、
「企業構造の最適化」はエフィッシモの言葉である。

今後の総会議案、開示姿勢、資本政策を注視するべきだ。

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