Onto Innovation がリガクHDを27%取得、半導体計測で米日統合

大量保有報告書 / 資本業務提携

Onto InnovationがリガクHDを27%取得、資本業務提携で筆頭株主が交代
X線×光学×AIの融合で2030年に3億ドル市場の創出を目指す
発行体 リガク・ホールディングス株式会社(268A)
提出者 オントゥ・イノベーション・インク(Onto Innovation Inc.)
報告義務発生日 2026年4月21日
提出日 2026年4月22日
上場市場 東京証券取引所プライム市場
根拠条文 金融商品取引法第27条の23第1項

取得株数
6,112万株
61,123,436株

株券等保有割合
27.00%
発行済226,402,700株対比

取得総額
約1,131億円
単価1,850円×6,112万株

クロージング予定
2026年7月1日
規制当局承認を条件

事実整理

本報告書は金融商品取引法第27条の23第1項に基づき、2026年4月22日に関東財務局長へ提出された。報告義務発生日は2026年4月21日であり、義務発生翌日という迅速な対応がなされている。提出書類の窓口代理人は西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の弁護士・前澤友規が務め、事務連絡先担当者は同事務所の末村祥真弁護士である。

発行体名称 リガク・ホールディングス株式会社(268A)
提出者 オントゥ・イノベーション・インク(Onto Innovation Inc.) CEO:マイケル・P・プリシンスキー
提出者所在地 米国デラウェア州ウィルミントン(登記上)/事業本部:マサチューセッツ州
設立年月日 2005年1月18日
事業内容 半導体産業向け計測・検査機器およびリソグラフィ装置の設計・開発・製造・サポート
保有目的 資本業務提携契約(2026年4月21日付)に基づく事業提携を目的とした保有
取得株数 61,123,436株(普通株式のみ、潜在株券等ゼロ)
取得単価 1株1,850円(市場外取引)
発行済株式総数 226,402,700株(2026年4月21日現在)
株券等保有割合 27.00%
取得資金 113,078,357千円(全額自己資金、借入なし)
株式の売主 Atom Investment, L.P.(旧筆頭株主)
取引の法的性格

本取得は市場外の相対取引(株式譲渡契約)であり、Atom Investment, L.P.が保有するリガクHD株の一部をOnto Innovationへ直接売却する形式をとる。新株の発行を伴わないため既存株主の持分希薄化は生じない。クロージング日は2026年7月1日の予定で、必要な規制当局の承認その他の条件充足が前提となる。

直近60日間の取得状況
年月日 株券等の種類 数量(株) 割合 市場区分 区分 単価(円)
2026年4月21日 普通株式 61,123,436 27.00% 市場外 取得 1,850

60日間の記録は2026年4月21日の一件のみである。Onto InnovationはそれまでリガクHD株を保有しておらず、本資本業務提携契約の締結と同一日付で株式譲渡契約を締結し、6,112万株超を一括取得する旨合意した。段階的な市場内取得ではなく契約に基づく一括取得であることが、取引ログの構造から明確に読み取れる。

取得主体の分析:Onto Innovation Inc.の位置づけ

Onto Innovation Inc.(NASDAQ:ONTO)は、半導体プロセス・コントロール分野における計測・検査装置のリーディングカンパニーである。ウエハー上のパターン形状、膜厚、欠陥を光学的手法で高精度に計測するシステムや、リソグラフィ工程に用いるマスク検査装置を主力製品とし、グローバルな主要半導体メーカーを顧客基盤に持つ。その強みは光学計測技術とモデルベースの解析ソフトウェアの統合にあり、AI・機械学習を活用したイールドマネジメント(歩留まり管理)ソリューションを展開している点で、純粋な装置メーカーとは一線を画す。

Onto Innovationは純粋な投資目的ではなく、事業上の補完関係に基づいて本取得に踏み切った点が、FMR LLCのような金融機関による大量保有と根本的に異なる。すでに2025年から両社はリガクのCD-SAXS(小角X線散乱を用いた臨界寸法計測)とOnto Innovationの解析ソフトウェアを組み合わせたハイブリッド計測技術の共同開発に着手しており、本提携はその技術協業を資本の側面から固定化するものである。全額自己資金(約1,131億円)による取得資金の調達は、Onto Innovationが本提携を財務的にも重要な戦略投資として位置づけていることを示している。

なぜこの企業なのか:リガクHDの事業構造とタイミング

リガク・ホールディングスは1951年の創業以来、X線分析技術をコアに熱分析等を含む先端分析機器を世界136の国・地域に展開してきた企業である。売上高の約70%が海外向けであり、半導体・電子材料・電池・ライフサイエンス等の幅広い産業を顧客とする。2025年12月期は半導体関連事業の好調により売上収益が前期比3.9%増の941.93億円を達成したが、成長投資継続により営業利益は9.0%減の167.09億円となり、収益性の一時的な鈍化を記録している。2026年12月期はAI・半導体需要を背景に7.2%増収・16.1%営業増益を会社側は見込んでいる。

株価面では、発表前日(2026年4月20日)の水準から提携発表翌日の2026年4月21日にストップ高(+22.1%、2,766円)を記録し、10年来高値を更新した。取得単価1,850円はこのストップ高前の水準に設定されており、市場のプレミアムを享受する前の価格でOnto Innovationが株式を取得する構造になっている。年初来安値(1,152円、2026年2月6日)からの上昇率は約139%に達しており、市場がリガクHDの半導体計測分野における成長ポテンシャルを急速に評価し直したことを反映している。

X線計測とOnto Innovationの光学計測は技術的に競合ではなく補完の関係にある。X線は光が透過できない埋め込み構造(三次元積層構造や貫通シリコンビア)の計測に優れ、光学は高速・非破壊の表面計測に強みを持つ。AIを活用した解析レイヤーで両者を統合することで、先端半導体の製造工程全体をカバーする「フルスタック計測ソリューション」への昇格が視野に入る。

関係者構造:株主交代のメカニズム
売主(旧筆頭株主)
Atom Investment, L.P.
クロージング後も15.03%を保有継続。42.03%→15.03%に持株比率が低下し、筆頭株主の地位から外れる。

株式譲渡(6,112万株)
単価1,850円
総額約1,131億円
2026年7月1日クロージング予定。規制当局承認を条件とする市場外相対取引。

買主(新筆頭株主)
Onto Innovation Inc.
クロージング後に27.00%を保有し筆頭株主となる。取締役候補1名の指名権を取得。全額自己資金で調達。

発行体
リガク・ホールディングス(268A)
クロージング後90日以内に臨時株主総会を開催し、Onto Innovation指名の非常勤取締役1名を選任する予定。

資本業務提携の骨子
4項目の主要条件
①譲渡制限期間中の株式処分禁止、②追加取得制限、③優先引受権(50%保有維持が条件)、④非常勤取締役指名権

戦略目標
2030年に3億ドル規模の新市場創出
ハイブリッド計測・先端パッケージング展開・ソフトウェア・AI統合によるイールドマネジメント事業の確立。

市場への示唆:3つのシナリオ
シナリオ A
技術統合の加速と株価再評価
CD-SAXSと光学計測の融合製品が次世代ロジック・HBMメモリ向けに商用展開され、2030年の3億ドル市場目標が前倒しで進捗するケース。Onto InnovationのNASDAQ上場グローバル顧客基盤がリガク製品の販路拡大に直結し、売上高・利益率の両面でのアップサイドが顕在化する。リガクHDの株価は提携プレミアムを織り込んだ水準でさらに上方に評価される可能性がある。

シナリオ B
規制審査の長期化とクロージング遅延
日米の競争当局または外国投資規制(日本の外為法・米国のCFIUS)の審査が長引き、2026年7月1日の予定クロージング日が後ろ倒しになるケース。半導体計測装置は国家安全保障上の重要技術として当局が精査を強化する傾向にあり、審査期間の不透明さが株価の上値を抑制する可能性がある。ただし、取引構造が日本企業の外国企業への譲渡ではなく日本企業への外国企業の資本参加である点は、規制リスクを一定程度緩和する。

シナリオ C
統合シナジー未達と関係見直し
X線と光学の技術統合が想定より複雑で、製品化に要する期間とコストが計画を超過するケース。資本業務提携契約上、Onto InnovationはOnto側が保有株の50%以上を実質的に保有する間は優先引受権を持つ一方、追加取得も制限される非対称な構造にある。シナジー実現が遅延する局面では、リガクHDとOnto Innovationの間で協業の優先事項に関する方向性の相違が浮上するリスクを否定できない。


論評

今回の取引は、単純な財務投資家による持分取得ではなく、半導体計測という高度に専門化した産業における技術的補完関係を資本構造で固定する「戦略的資本結合」の典型例として位置づけるべきである。Onto InnovationがNASDAQ上場の米国企業として全額自己資金約1,131億円を投じてリガクHDの27%を取得したことは、X線計測というリガクの固有技術が次世代半導体製造工程において代替困難な差別化資産として評価されたことの証左であり、光学・AI・X線の三技術が一体化することで単独では届き得なかった顧客課題の解決が視野に入ったという判断が背景にあると見るのが自然だ。一方で、譲渡制限・追加取得制限・優先引受権が複層的に設定された資本業務提携契約の構造は、Atom Investmentが依然として15%超の株主として残存する状況も含め、将来の株主間の利害調整が経営判断に与える影響について継続的な注視が求められると見るのが自然だ。

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