J O ハンブロ、日本製鋼所に5.02%出資

“英国流バリュー戦略”が日本重工株に照準

2025年7月24日、英国ロンドン拠点の資産運用会社「J O Hambro Capital Management Limited(以下、JOHCM)」は、日本製鋼所(証券コード:5631)の株式3,735,464株(発行済株式総数74,408,985株のうち5.02%)を保有している旨を関東財務局に提出した大量保有報告書にて明らかにした。

保有目的は「顧客資産の運用に基づく純投資」とされており、提案行為やガバナンス介入の予定はないとしつつも、その取得背景を紐解けば、バリュー志向の機関投資家が“割安製造業株”に本格的に流入し始めた兆候としての位置付けが浮かび上がる。

J O ハンブロとは

ロンドン発、クオリティ・バリュー投資に特化する運用会社

JOHCMは1987年創業の独立系運用会社であり、以下のような特徴を持つ。

  • 本社:ロンドン、セント・ジェームズ・マーケット1番地(Level 3, 1 St James’s Market, London)

  • 設立:1987年10月9日

  • 代表者:Peter Goode(Head of People & Culture)

  • 事業内容:投資一任資産のアクティブ運用

  • 日本提出代理人:フレッシュフィールズ法律事務所(弁護士 中尾雄史/佐藤貴裕)

特に欧州・アジア株の長期バリュー運用に定評があり、日本市場では中堅製造業株への構造的エントリーを進める機関の一角を占める。

投資先は“国家技術安全保障”の象徴企業、日本製鋼所

日本製鋼所は、以下のような多面性を持つ重厚長大型製造業である。

  • 主力事業:防衛装備(艦砲砲身等)/プラント向け超大型鋼塊製造

  • 成長ドライバー:半導体向け精密成形装置/成膜装置部材(電子ビーム系)

  • ESG注目点:カーボンリサイクル/水素関連部材

  • 財務:自己資本比率70%台/無借金経営/安定配当

政府の安保補助金対象としても度々取り上げられ、“戦略技術インフラの中核企業”として注目される一方、PBRは依然0.8倍前後と低位にある。JOHCMにとっては、まさに典型的な「価値はあるが市場が無視する日本株」だったと言える。

取得構造

60日間で1,000万株超を分散取得、2.4億ドルの顧客資金を投下

報告書によれば、保有3,735,464株(5.02%)の大半は、2024年11月19日から12月18日にかけて、市場内および一部市場外で段階取得された。

  • 取得資金総額:24,149,026千円(≒2億4,000万ドル)

  • 取得方法:すべて顧客資産による純投資(借入・レバなし)

  • 市場外取得単価:6,269円〜6,669円(複数あり)

これにより、JOHCMは「戦略的に高値でも取得を続けた」ことがうかがえる。価格妥協をしてでもポジション確保を優先した意図が明確に現れている。

意図は沈黙

だが構造は“圧力”

保有目的は明確に「純投資」とされ、提案行為は「該当事項なし」と報告されている。

だが以下の構造が無視できない。

  • 保有割合:5.02%=アクティブガバナンスライン

  • 保有動機:明記されていないが、複数日にわたり高値取得を行っている

  • 日本製鋼所:自己株買い・ROE目標なし、ESG情報開示も発展途上

このように、表向きは沈黙でありながら、制度上の“圧力ポジション”に座した構造的アクティビズムの一端を成している。


「声なきアクティビスト」が静かに産業インフラ株を動かす時代

J O ハンブロによる日本製鋼所5.02%の取得は、声を上げない投資家の“影響力”が日本のインダストリアル・ベースを揺るがす時代の始まりを告げている。

その本質は、議決権ではなく“構造保有”。提案ではなく“暗黙の圧”。買いは語らずとも、数字が物語る──そうした次世代ガバナンスの入口として、この一報は記憶すべきだ。

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